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ヒヨリは、広い客間で心を躍らせながら屋敷の 主人を待っていた。隣に座る仲間はこの世の終わりだとでも言うように体を震わせている。 本当ならその反応が正解なのだろう。なんせ獣人に買われるということは動物的なセックスと、自由のない囲われた生活を送ることを意味する。人間としての尊厳なんてあっという間に無くなり、物のように扱われるのだ。 ヒヨリもその事はよく分かっていたが、ヒヨリにとって今回の出張売出はチャンスであることに変わりはなかった。 そわそわしながら待つこと数十分。 やっと客間に入ってきた獣人にヒヨリは目を輝かせた。 尖った耳と切れ長の眼は狼の証。毛は真っ白で、それが上品さを漂わせていた。 ーなのに、随分とだらしのない服の着方だなぁー 腕を通しただけの服には皺が寄っている。どこかに落ちていたものを適当に羽織ったような、そんな感じ。 「…どいつも小せぇなぁ」 アドルフの低く唸るような声にヒヨリは身を震わせた。 「アドルフさん、人間てのは小さいもんでさぁ。でも体は丈夫です。お気に召したのがいれば是非」 カダムが手を擦り合わせるのと同時に仲間が顔を伏せた。 アドルフと『目が合う』という、それだけのちっぽけな繋がりで気紛れに選ばれてしまうことを恐れているのだ。 そんなオメガ達とは反対に、ヒヨリは背をピンと伸ばした。 「アドルフさん、俺を買ってください!」 予想もしない言葉に、その場にいた全ての人が固まった。

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