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そんなに驚かなくても、と首を傾げた。 確かにそんなことを言うオメガなんてまずいないだろうけど、俺は決して変わり者なんかじゃない。 しぃんとなる中で、一体どうしたものかと悩んでいると、アドルフがカラカラと大きな声で笑った。 「獣人に買われたい?それがどういう意味なのか分かっているのか?」 「分かってますよ。俺たち、ぼろっちぃ木の家に詰め込まれるようにして住んでるんだ。夕方になると枯れた男たちが来るの。小汚いじいさんを相手にして暮らすくらいなら、綺麗な屋敷の方がいいじゃない」 「へぇ」 鼻を鳴らすアドルフに、ヒヨリはあともう一押しだと思った。 だってあの目は好奇心の眼だもの。俺たちを一夜のお供に選びに来るじいさん達がよくあの眼をするから知っている。 ただ、下心丸見えのじいさんと違って、アドルフのは純粋な『可笑しい奴を見つけた』っていう意味の好奇心らしいけども。 「俺、自慢するわけじゃないけど、体の具合は良いよ。何されたって泣かないよ」 不敵に笑うアドルフに手応えを感じた。 「名は?」 「ヒヨリだよ」 「ヒヨリ、お前を買ってやろう」 欲しかった言葉をもらい、ぱあっと顔を輝かせた。 隣でカダムが同じように嬉しそうにしながら手を擦り合わせる。 「これはこれは、ありがとうございます。早速契約の話をしても?」 「要らない。そっちの都合の良いように勝手にやってくれ」 「仰る通りに。…ほれお前、足の鎖取るから動くなよ」 カダムに足枷のようなものを取ってもらい、ゆっくりと立ち上がった。 久しぶりの軽さに思わず足踏みをすれば『騒がしい!』と頭を叩かれた。所詮じいさんだから大して痛くはなかったけど。 「ヒヨリ、後から後悔して大泣きしても知らねぇからな」 「心配しないで。逆に後悔させてあげる」 オメガならオメガらしくその特性を活かして生きる。 ヒヨリの新たな生活の始まりだ。

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