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同居人

目隠しをされたまま乱雑にどこかの檻に入れられた、幸い手首を拘束されていた鎖は外されたようだ。 頑丈な鍵がかけられた音を聞いた後、目隠しを外してみる。 「狭い」 薄暗いそこは、人一人が横になって両手を広げたほどのスペースしかない。 これがオレの新しいハウスか… 奥には簡易トイレが… 「!?」 何かいる!! 部屋の奥、角に身体を縮めて、暗闇の中、緑色に光る双方の瞳が微かに震えている。 何が… 少し近づいてみると、さらに怯えた目でこちらを見据えてくる。 顔や前面は人間の風貌だが… 大きな耳が頭の上部に位置している。 茶色い長い髪…? 髪だと思ったそれは肩や腕、背中にまでふっさりと毛並みが続いていて、尻には細く長い尾が生えていた。 半獣人だ。 オレがΩにならなければ、お目にかかることも出来ないような貴重な存在だ。 こいつらに比べたらオレはまだマシだと思ってしまうほど、半獣人への扱いは酷いものだ。 国ぐるみで半獣人を奴隷化しているのだから。 現在では獣人と人間の交わりを堅く禁じているが、以前交わりを持った子孫の人間族の中に、覚醒遺伝で稀に生まれる個体。 半獣人は見た目ですぐにわかる為、産まれた瞬間に回収対象になる。 親には死産として通告し、半獣人の子は実験動物研究施設や裏ルートで売られる。 それが常識になっているから親もすぐ諦める。死産イコールそういうことだ。 「なぁ、」 試しに声をかけてみた、おそらく、しばらくはこの半獣人と共同生活になりそうだから。 「……」 「お前、名前は?」 「……」 全く反応がない。 噂は本当なんだな… 半獣人は、回収後ほとんど教育をされていないため言葉を話せないと噂されていた。 今までどんな扱いを受けて来たのか… こいつにとっては人間そのものが恐怖の対象なんだな。 「オレはアサト。首輪、お揃いだな」 とりあえず自己紹介してみる、通じているかは定かではないが… 一応ファミリーネームもあるけれど、もうオレは名乗るべきじゃない筈だ。 自嘲気味に笑いながら、半獣人の首に付いている首輪を見る。 「タグ?」 そこには鉄製のタグがついている。 「2746c」 「これがお前の名前なのか…」 数字が名前だなんてナンセンスだ。 「シィにしようかお前の名前」 アルファベットの方が幾分マシだろう。 「怖がらなくていいよ、オレとお前は同じだから」 力あるものに奪われる側だ。 不意に後ろで物音がした。 鉄格子の隙間から何かが投げ込まれたようだ。 確認しに行くと、パンが二つ床に落ちている。 まさか、これが食事? この固まったゴムのようなカスカスのパン、しかも床の上に? 数日前には暖かい部屋で、テーブルに並んだ食事を食べていたのに。 親たちは売られたあと、オレがどんな目にあうかなんて想像すらしていないんだろうな… とりあえず、パンを拾う。 二つということは、シィと分けろってことか… 普通なら順位の上であるオレが一人で食べてもシィは抗議さえできない、最下層に生まれた者の宿命だ。 この世の中は強い者に支配される世界。 弱い者はいじめられて当然。それがこの国のルール。 けれど、 そんな常識は間違いだ。 「シィ、食べろよ」 まだ怯えているシィへ、パンを渡してみる。 すると怯えながらも少し不思議そうな顔になる。 シィはしばらく躊躇っていたが、よほど腹が減っていたのか、サッとパンを受け取ると、警戒しながらパンをかじりはじめた。 それを見て、なんとなく心が温かくなった。 つられるようにパンをかじってみる。 「マズ…」 予想通りの味がした。

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