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Ω宿

毎日昼十二時に作業が始まる。 いきなり水をかけられ、檻ごと洗浄され、次に霧状の薬を撒かれる。 それを嗅ぐとすぐ意識を失う。 次に目を覚ました時は、大きな布に穴をあけて被らされただけの様な衣服を身につけさせられ、目隠しをされ、店の前に繋がれている。 営業時間の昼十三時から翌朝七時まで店の前の檻に目隠し状態で拘束された。 一日一食しか与えられず、水分も制限されているためか、拘束中に生理現象の欲求は起こらず、αを見つけては興奮し、その発情の辛さが上回っているため空腹も感じなかった。 しかし営業時間外の五時間は別だ、発情中は相手を求めて身体が疼く。 営業中に沢山のαの気配に煽られ、興奮状態のまま檻に返される。 本当に誰でもいいから楽にしてくれ、そこにいるシィでさえ相手にしたいと思うほど、プライドも何もかも捨て去りたい気持ちにさえなる。 シィはオレの発情期に反応しない、半獣人のΩ雄なんだろう。 男性としての生殖能力の無いΩはフェロモンに反応しないから。 勝手にドキドキと胸が鳴り、呼吸数が上がっていく。 発情を抑える薬さえあれば、こんなに苦しまなくていいのにな… ろくに眠れない、体力は日に日に奪われていった。 さらに過酷な労働環境に、思考力も失われていく… 眠い、喉が渇いた、腹が減った、身体が熱い…もう勘弁してくれ… 三日目、檻の入り口でうなだれていると、気配がしてそっと瞳を開ける。 シィが初めて近づいてきていた、犬のように鼻先を近づけて、オレの赤毛髪を匂っている。 少しの間、寝たふりをしていたが、シィはオレの腕をペロリと舐めてきた。 「ンっ!」 他者から触れられ、敏感になっていたオレは、抑えられず声を漏らしてしまう。 するとシィは、ビクっと身体を震わせ、再び檻の角へ逃げてしまった。 「シィ…」 シィなりに苦しむオレを心配してくれたのか? 「……」 「シィ、お前はもう経験したか?これが発情するってやつ…」 シィは見た目まだ十四、五歳あたりだ、まだ発情期は来てないのかもしれない。 「……」 「オレの身体は、狂ってる」 立派なαになるはずだったんだけどな… 「これが、三ヶ月に一回くるのか…せめて自由になれば…ツガイを見つけて、この苦しみから抜け出すことも、出来るのに、な…」 うわ言のように、言葉を紡ぎ、そのまま睡魔に勝てず沼に引き込まれるように眠りにおちた。 何時間か経った頃、不意に他者の温かみを感じて、目を覚ますと… 身体を丸め、オレに寄り添って眠るシィの姿… (シィ…ありがとう) その熱を感じることで、この苦しみが少し和らいだ気持ちになれた。 そのまま、二人は寄り添いながら短い眠りを貪っていた。 その日からシィは寄り添って寝るようになった。 毎日、食事を分け合い、話しかけていくうちに、オレが危害を加える存在ではないことを分かってくれたようだ。 こんな狭い檻の中で温もりを分かち合える唯一の存在だから仲良くしたい。 薄暗い檻の中でははっきりと確認できなかったが、近づいてみると、シィの顔や身体に無数のアザがあるのが分かる。古いものから新しいものまで… 時々店の中から金切り声のような悲鳴が聞こえてくることがある。 もしかしたらシィが暴力を受けているのかもしれない。 そっとシィの身体を撫でてやる。背中の毛は栄養失調の影響かガサガサになっていた。 こんな純粋なシィが一体、どんな悪事をしたというんだ、見た目が違うだけで… こんな理不尽なことがあってたまるか… いつか必ずここから逃げ出す。シィも助ける。 そう強く心に誓うのだった。

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