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強襲
五日目。
発情期もそろそろ終わる。とりあえずこの苦しみから解放される。それだけを思って店の前で一日が過ぎるのを待っていた。
夜も更けた頃、突如轟音とともに地響きが鳴り響く。
次の瞬間、店の小屋入り口周辺が倒壊してしまった。
「っ何が?」
目隠しをされていた為、一体何が起こったのか全く分からなかったが、小屋が壊れたお陰で、手首の拘束と首輪が千切れて外れた。
屋根の下敷きになっているようだが、運良く隙間に入り込み大きな怪我は負わなかった。
周りの音を聴いて、ようやく事態が見えてきた。この店は爆破され襲われている。
何人かのαの怒号が聞こえる。
『Ωの存在は世界を狂わせる!皆殺しだ!!』
『1人も逃すな!!』
一部の過激派αがΩをこの世界から排除する運動をしているのは知っていた、けれど本当にΩを襲って殺していたとは…
ハッと思う。
「ッ、シィが危ない!」
αたちはΩを殺す為、店の中になだれ込んでいる。
オレだけなら、このまま逃げようと思えば逃げられる。
けど、シィがまだ中に…
早くしないと、殺されてしまう。
けれど、αが襲撃中の店に入って助けるにはリスクが高すぎる。殺されに行くようなものだ…
でも!
「ッ迷ってる暇はない」
潰れた小屋から這い出して、近くにあった黒いフードつきマントを深く被り、いつも悲鳴が聞こえる方向へ突入していく。
爆発で入り口あたりは大破していた、あちこちで火の手が上がり煙が充満している。
姿勢を低くして、混乱の中突き進む。
オレはまだそれでも十七年間、楽しく過ごしてきた。普通に教育を受けて、αの家庭で優越感にだって浸れていた。
けど、シィはまだ、アイツはまだ何も、何も楽しいことを知らないから。
このまま死なせちゃダメだ。
「シィ!どこだ!?シィっ!」
飯を分け与える時、必ず名前を教えていた。
『お前はシィ、オレはアサト』
今まで一度も呼ばれたことはないけれど、なんでもいい、声を出してくれ!
「どこにいる?シィ!!」
充満する煙のせいで、視界はほぼゼロ、右奥の方では悲鳴やら怒鳴り声が響いている。
声を出すことでαに見つかる可能性も上がるが、勘を頼りにシィの居場所を探す。
そんなに奥じゃなかった筈。
「シィっ!頼む!答えて!」
もう生きていないかも知れない、けど…
祈るように呼んだその瞬間。
「……アサ、ト…」
ポツリと耳に入ってきた声。
弱々しい、囁くような声が…
「シィ!?」
声がした方へ向かう。倒れた棚を起こしてみると、そこに…
「シィ!!」
生きてた!!
茶色い毛並み、うずくまるように身を縮めて震えている。
間違いなくシィだ。
その華奢な身体をぎゅっと抱きしめていた。
「一緒に逃げよう!」
とにかくここは危険だ、見つかったらヤられる。
しかし…
「ッ、鎖…」
シィの首輪には頑丈な鎖が繋がっていた。
「くそッどうやって外せば」
焦るオレに、シィはそっと手で触れてくる。
「えっ」
シィの指す先には、倒れた棚。床の上には…鍵の束が…
「これか!」
鍵を見せるとシィはコクリと頷いた。
その束には鍵が二十ほどついていた、どれがシィの首輪の鍵か分からない。
考えている暇はなく、一つずつ鍵穴にさして確かめていく。
焦る気持ちを抑えながら、九つめの鍵をさした時…
ガチャ。
「開いた!」
そっと首輪を外してやる。
そこへ、
バタバタと数人の無骨な足音。
襲撃してきたα達だ。
オレたちは息を殺してうずくまり、αが通り過ぎるのを待つ。
しかし…
「ん?おい!Ωの匂いがする」
αの一人が足を止める。
「……」
ヤバイ…オレの匂いが…
身体から発せられる匂いは、息を止めても抑えられないが、願うようにぐっと呼吸を止める。
このままじゃ、シィまで…。
シィのそばを離れるべきか、悩みながらもシィを抱き寄せ身をひそめる。
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