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森へ

すると、先を行くαが… 「そっちはさっき見たが死体しかない、ここはもうすぐ崩れる、さっさといくぞ!」 「あぁ」 その言葉に頷き、αはそのまま出て行った。 足音が遠のいて行く。 「っ、はぁ、はぁ…」 凄まじい緊張から解放されて、大きく息をつく。 「シィ、動けるか?」 火災の影響か、建物は奥から崩れ落ちていく音が響いている。 煙を避け、低い姿勢のまま建物を出て、二人は夜の暗闇に紛れて逃げ出だした。 何時間走っただろう、村から外れ、山道に入ってきた。二人とも走り疲れ、あてもなく、あの店から離れる事だけを考えてなんとか足を進めていた。 目の前に小さな壊れかけの小屋が見えた、人の気配はしない。 「少し休もう」 もうオレもシィも限界だった。 警戒しながら小屋の戸を開く。鍵はない。 中に入ると、荒らされたようなあとがあったが、大きな机の下へ身体を滑り込ませ、崩れ落ちるように二人で眠りについた。 身体が熱い…息が上がる… これは、 ハッと目を開ける。 近くにαが来てる!! 「シィ、ここにいて」 声を殺して伝え、シィを机の下に隠したまま、外の様子を見るために窓へと近づく。 外には誰もいないように見えた。 次の瞬間。 ギィ、と耳につく音を立てて小屋の戸が開く。 振り返ると、ガタイのいい男が立っていた。 「いい匂いがするから来てみれば…」 男は小屋に入って来るなり一人喋り出す。 「はぐれΩか?こんな所で出会えるなんてな」 その男は三十代か四十代そこらに見える、身なりの良い服を着て、ニヤリと不気味に笑いながら近づいてくる。 「ッ、来るな!ハァ、ハ、」 言葉とは裏腹に、身体は見知らぬ男を欲して熱く猛っていく。 「苦しいだろ?楽にしてやるよ」 獲物を捕らえたような目つきで、ジリジリと距離を詰めて… 「やめろ、いやだッ」 壁に追い詰められ、逃げ場がなくなる。 「ほら、身体は正直だ、オレとヤりたくてウズウズしてる」 「違、やめッ…ァっ」 男は、簡単に組み敷いて、後ろの孔に指を無理やり挿れてくる。 気持ちは嫌で仕方ないのに、男の与える刺激に身体は完全に屈服してしまい、痺れるような快感に喘ぎ声が零れ出て… 「や、ァッ、ャ…んッ」 逃げようにも、全然力が入らない… オレは、ヤられるのか… 覚悟を決めたその時、脇から飛び出てきた体躯。 「!?」 シィが男に体当たりをし、そのまま腕に噛み付いている。男も油断していたが、すぐ反撃に転じ片方の腕でシィを殴りつけている。 しかし殴られても離れないシィ。 「っ!シィッ」 シィを助けるため、ガクガクと力が抜けそうな足を踏ん張り、とっさに側にあった木製の農具で男の頭を力が出る限り殴りつけた。 「ぐっ…」 男はくぐもった声を洩らし動きを止める。 「シィ!」 男の状態を確認する暇はなかった。 シィを呼び腕を掴んで、小屋から飛び出す。 外はいつの間にか明るくなっていた。 山道を通り抜け、林を駆けて森へ… そこに掲げられた看板に身体が凍りつく。 『これより先、死の森へと続く、還れぬ森。何人たりとも侵入を禁ず』 死の森、動植物は凶暴化し、獣人が徘徊する深い闇に包まれた森、一度入れば二度と戻ることは叶わぬ、還れぬ森。 子供の頃から死の森だけには近づくなと、夢に見るほど教えられてきた場所だ… けれど、オレたちはもう人間の世界ではマトモに生きてはいけない。 人間が近づかない場所なら…好都合。 たとえ還れなくなっても、シィと二人で…生きてやる。 恐怖心を振り切り、人間の世界に別れを告げ、深い森の中へと身を投じていった。

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