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獣人

草木を掻き分け、歩き続けること一時間、綺麗な小川が流れていた。 昨日から何も口に出来ていなかったため、二人は貪るように小川の水をかきこんだ。 歩いているうちに、興奮状態も落ち着いてきて… 岩場の影に腰をおろし、途中で摘んできた果実を二人で分けて食べることにする。 「シィの分、オレ、アサトの分」 いつものように名前を呼んで分ける。 「シィ…、アサト…」 すると真似をするように、シィが口を開く。 「!そうそう、お前がシィ、オレがアサト、喋れるじゃないか!」 「アサト、」 「そう、アサト。そういえば逃げるときも呼んでくれたよな、助けてくれたし、ありがとうな!」 「……ありが…?」 「はは、今のところ凶暴な動物も見当たらないし、少し休んでいこうか」 シィとのやりとりに少し和みながら。 人間には見つからない場所、それに安堵して… 二人は肩を寄せ、疲れを癒すように、今一度、深い眠りに落ちていく。 何時間経ったのか、定かではないが、耳を裂くような動物の遠吠えに目を覚ます。 辺りは薄暗くなっていた。 「しまった、寝すぎた」 明るいうちに安全な場所を確保したかったが、すでに森は闇に染まろうとしていた。 起き上がって気付く、発情特有の重だるい身体の変化が消えている。ようやくはじめての発情期が終わったようだ。 「シィ大丈夫?何の鳴き声だろう」 遠吠えに恐怖を感じたのか、シィは身体を縮め、ブルブルと震えている。 「……」 その時、ガサガサと林が揺れて音を立てた。 何か来る。 シィも背中の毛が逆立って、恐怖心をあらわにしている。 身体を屈め、息を殺して、何者かに見つからないように隠れていたが… すぐ近くの林がゆれ、そこに現れたのは… 「!!?」 獣人!! そこに二足歩行で立つのは、青銀の毛並みを持つ、全身を毛に覆われた力強い巨大な肉体、目を奪われてしまうほど美しい狼獣人だった。 身長は2メートルを超え、顔は細っそりと長く、狼のそれと良く似た形状の大きな口、少し開いた隙間から見える鋭い牙。指の先には鋭い爪。 闇にギラギラと金色に光る瞳は獣そのもの。 その鋭い眼差しは、真っ直ぐ二人を捉えていた。 「……っ」 初めてみる獣人族の姿。 アサトは幼い頃より、獣人族は野蛮で鬼畜で人を喰う鬼として教わってきていた。 シィもその迫力に震えていて、アサトはその怯えた体躯をぎゅっと抱きしめる。 二人は身体を寄せ合い、死を覚悟した。 次の瞬間には、肌を鋭い牙によって引き裂かれ、溢れる血肉とともに獣人の糧となるのだろう。

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