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予想外

しかし… 「お前ら、人間か?」 思惑とは反対に、人狼は冷静な口調で話しかけてきた。 「……」 恐怖で声が出ないとはこの事だろう。指先一つも動かすことができなかった。 「来い、ここは危険だ」 その声は、重く力強く洗練された低音で、静まり返った森に凛と響く。 「…っ」 「怖がらなくていい、何もせん」 林を掻き分け、ザザッと獣人は近寄って、くんくんと突き出た鼻で髪の匂いを嗅いでくる。 それは襲われるのかと思ってしまうレベルの迫力があり、シィはオレの後ろへ身体を丸め隠れた。 「やはり人間のΩか、お前達も人間に捨てられたのか?」 「…あ、あんたは?」 恐る恐る言葉を発する。 「獣人族、ラスト地域を縄張りにしている(むれ)(おさ)ラウ、クロフォース。この辺りは時折人間の子が捨てられる場所、食料調達の合間に見回りをしている」 獣の顔で丁寧に自己紹介してくる。 「オレ達はお前達に食べられるのか?」 食料?なのか。 「ふ、俺たちは人間を食べたりはしない、帰りたいなら道を教えてやるが?」 少し笑うように会話を続ける。 「……帰る場所なんかない、オレたちは人間に殺されかけたから」 会話ができる、コミニュケーションが取れたことで、恐怖心が少し和らいでいくのを感じ取れた。 「人間は愚かだ、なぜ無意味に殺しあう?」 「…一方的だった、オレたちは、搾取される側だ」 「……そうか」 「殺されそうになった、だから自分でこの森に逃げてきた、あんな場所…耐えられなかったから」 「なら、俺たちの(むれ)に来るか?」 「え?」 「夜が深まれば、森は凶暴な動物が徘徊しはじめる、お前らは恰好の餌食だ」 「…ついて行ってもいいのか?」 「あぁ、俺には権限がある」 「…オレたちの安全は保証されるのか?」 「あぁ、当てもなく森をさまようよりは命の安全は確保できる。ただ(むれ)に加わるなら、この(むれ)のルールを守ってもらう」 「ルール…」 「ここは危険だ、住処に移動しながら話す」 「…分かった」 林を掻き分け、迷いなく進む獣人、何とかついて行きながら、話を聞く。 「ルールは(むれ)によって異なるが、全ての獣人族共通のルールがある、それが人間の世界へ足を踏み入れないこと、人間と交わらないことだ」 「オレたちを(むれ)に入れて大丈夫なのか?」 「好ましく思わない者がいるのも確かだが、俺は人間だろうと人狼だろうと、半獣人だろうと助けられる命をほおっておくことは出来ない」 「……」 野蛮な獣人の筈が、差別に満ちた人間よりも、数百倍マトモな考えを持っているじゃないか… 「助けた後、お前たちがどうするかは、お前たちが決めればいい」 「お前、いい奴だな」 そう呟いた言葉に、一瞬驚いた表情をした獣人だが、不意に口元が緩み笑い出す。 「…はは、面白いやつだ」 「ラウ、だっけ?オレはアサト、まだ完全に信じたわけじゃないけど、あんたの考えは間違いじゃないと思う、だから、オレたちをラウの住処に連れて行ってくれ、力になれることがあるなら手を貸すから」 「あぁ、分かった」

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