9 / 28
予想外
しかし…
「お前ら、人間か?」
思惑とは反対に、人狼は冷静な口調で話しかけてきた。
「……」
恐怖で声が出ないとはこの事だろう。指先一つも動かすことができなかった。
「来い、ここは危険だ」
その声は、重く力強く洗練された低音で、静まり返った森に凛と響く。
「…っ」
「怖がらなくていい、何もせん」
林を掻き分け、ザザッと獣人は近寄って、くんくんと突き出た鼻で髪の匂いを嗅いでくる。
それは襲われるのかと思ってしまうレベルの迫力があり、シィはオレの後ろへ身体を丸め隠れた。
「やはり人間のΩか、お前達も人間に捨てられたのか?」
「…あ、あんたは?」
恐る恐る言葉を発する。
「獣人族、ラスト地域を縄張りにしている群 の長 ラウ、クロフォース。この辺りは時折人間の子が捨てられる場所、食料調達の合間に見回りをしている」
獣の顔で丁寧に自己紹介してくる。
「オレ達はお前達に食べられるのか?」
食料?なのか。
「ふ、俺たちは人間を食べたりはしない、帰りたいなら道を教えてやるが?」
少し笑うように会話を続ける。
「……帰る場所なんかない、オレたちは人間に殺されかけたから」
会話ができる、コミニュケーションが取れたことで、恐怖心が少し和らいでいくのを感じ取れた。
「人間は愚かだ、なぜ無意味に殺しあう?」
「…一方的だった、オレたちは、搾取される側だ」
「……そうか」
「殺されそうになった、だから自分でこの森に逃げてきた、あんな場所…耐えられなかったから」
「なら、俺たちの群 に来るか?」
「え?」
「夜が深まれば、森は凶暴な動物が徘徊しはじめる、お前らは恰好の餌食だ」
「…ついて行ってもいいのか?」
「あぁ、俺には権限がある」
「…オレたちの安全は保証されるのか?」
「あぁ、当てもなく森をさまようよりは命の安全は確保できる。ただ群 に加わるなら、この群 のルールを守ってもらう」
「ルール…」
「ここは危険だ、住処に移動しながら話す」
「…分かった」
林を掻き分け、迷いなく進む獣人、何とかついて行きながら、話を聞く。
「ルールは群 によって異なるが、全ての獣人族共通のルールがある、それが人間の世界へ足を踏み入れないこと、人間と交わらないことだ」
「オレたちを群 に入れて大丈夫なのか?」
「好ましく思わない者がいるのも確かだが、俺は人間だろうと人狼だろうと、半獣人だろうと助けられる命をほおっておくことは出来ない」
「……」
野蛮な獣人の筈が、差別に満ちた人間よりも、数百倍マトモな考えを持っているじゃないか…
「助けた後、お前たちがどうするかは、お前たちが決めればいい」
「お前、いい奴だな」
そう呟いた言葉に、一瞬驚いた表情をした獣人だが、不意に口元が緩み笑い出す。
「…はは、面白いやつだ」
「ラウ、だっけ?オレはアサト、まだ完全に信じたわけじゃないけど、あんたの考えは間違いじゃないと思う、だから、オレたちをラウの住処に連れて行ってくれ、力になれることがあるなら手を貸すから」
「あぁ、分かった」
ともだちにシェアしよう!