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ルール
「食事場に案内しよう、食事場といってもお前たち人間のそれとは少し違うようだがな」
「ありがとう、ラウは弟と仲が悪いのか?」
気になったことを聞いてみる。
「…いや、けれど、奴は俺に依存しすぎている、お前らも極力、レイ…弟に近づくな…」
「……レイはα?」
「いや、Ω雄だ」
「…同じか」
なら気持ちを分かち合えるんじゃないだろうか、それとも獣人は人間とは考え方が違うんだろうか。
案内された場所は岩場に穴を掘った意外と広い場所。洞窟状になっていて、ランタンのような明かりで内部が照らされている。
「ここが食事場だ、寝る場所は別にある」
「……」
木を組んで作ったであろう机、丸太のような木が椅子がわりになっているようだ、奥には藁が敷き詰められて横になれそうな場所もあった。
体格のでかいラウでも悠々過ごせるほどの広さがある。
「座ってくれ」
促されテーブルにつく。シィは椅子に慣れていないのか、オレの足元の床に座っている。
しばらくして、様々な食事がラウの前に運ばれてくる。脇に手を洗う水が用意されていて、食事は手を洗いながら手で掴んで行うスタイルだ。
その食事を分けてもらいながらラウの話を聞く。
「俺たちのルールは簡単だ、生きるために仲間で協力し狩をする。得た食料は皆で分ける。儀式以外の争いを行わない、順位を守り上位の者に従う」
「儀式?」
「争いになった際、話し合いで解決しない場合は決闘によって順位を決める、負けた者は勝った者に従う決まりだ」
「ラウ達はΩをどういう風に扱ってるんだ?」
「……、獣人族もΩの階級は低い、群 のαの保護下に入るか、新たにツガイを見つけて群 を離れるか、それはΩ自身が決める」
人間の世界ではΩに決定権はない、国や周りの大人がその先を決める。
そこが大きな違いだった。
「……獣人族に発情期を抑える薬はあるのか?」
「そんなものはない、発情は自然の摂理だ、ただ闇雲に数が増えるのは群 を存続する上で妨げになる、その為に孕まないようにする薬草は使用されている」
「100パーセント防げるのか?」
「あぁ、俺の群 では、子孫を残して良いのはαだけと決められているんだ、食料も限られた中で縄張りを守り生きていくことは容易ではないから、α以外のツガイやパートナーに子が出来たら群 を出る決まりだ」
「そっか…オレたち人間は、獣人族のことを誤解していた、獣人族は野蛮で血に飢えた化け物だと教科書にも書いてあったから…でも全然そんなことはなかった」
どちらかといえば人間の方が差別や殺戮を繰り返す野蛮な一族だ。
人間が己を正当化する為に、真実を都合よく歪曲させていたんだ。
「俺たちのことを怖れないのか?」
「よく見ると格好いい」
金色の瞳を真っ直ぐに見つめそう笑う。
「ふん、本当に面白い奴だなお前は」
突き出たその鼻で笑われた。
「オレはアサト、こっちはシィ、名前で呼んでくれよ」
「アサト、いつでも群 から出て行っていい、だが、人間界に戻るなら獣人族のことは他言無用で頼む」
「分かってる、けど戻るつもりはないから、助けてもらった礼にラウたちの手伝いがしたい、出来ることは何でもするから言ってくれ」
「あぁ。皆が警戒しているから今夜は俺の住処で眠るといい、部屋が余っているから」
「ありがとう」
慣れない獣人族の群 での生活、ラウの心遣いをありがたくいただくことにする。
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