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不穏
「シィ大丈夫か?…自分で、やったのか?」
瞳を見つめ、そう問いかけると、小さく小刻みに首を横に振るシィ。
「そうだよな、違うよな…ごめん」
ならレイが?
証拠はないけど、オレたちを邪魔だと思っているのは確かだから…
シィを一人残すのは危険だ。
かと言って、獣人に慣れていないシィを狩に連れて行くのは…
「手当てする物、貰ってくるから待ってて」
そう離れようとすると、行かさないようにぎゅっと抱きついてくる。
「……シィ」
置いていかれたくない…そう訴えていて…
その想いに胸が痛くなり、優しく抱きしめてシィが落ち着くのを待った。
「アサト?上にいるのか?」
再びラウから声がかかる。
「ラウ!…少し話がある、来てくれ!」
「アサト?」
あっという間に木を登り、オレたちのいる部屋を覗き込む。
「悪いけど、何か手当てするものを持ってきてくれないかな」
「どうした、狩中に怪我でもしたか?」
「いや、シィが…」
「…これは!?…待っていろ!」
シィの身体の傷を確認して驚きながらも急いで小屋を降りて行く。
そしてまっすぐ治療道具を取りに走る。
「どうされました?」
すぐにβ雌の獣人が声をかけてくる。
「治療箱を貸してくれ」
「どこかお怪我を?ラウ様がなさらずとも私どもが」
「いや、俺じゃない、持っていくから道具を一式貸してくれ」
「かしこまりました」
「助かる」
治療道具を受け取り、ラウは住処に急ぐ。
その様子を見て、遠くから冷たい視線を送るレイ。
「持ってきたぞ」
「ありがとう」
「これが傷には効く」
渡してくれた薬草を傷に塗り込む。
しみるようで、キュゥと小さく鳴き声をあげるシィ。
「ごめんな、シィ」
「……すまない、シィ」
「……」
「レイか?」
ラウは何か思い当たる節があるのか、言葉少なにシィへ問いただすが、震えるばかりで答えられない様子。
「分からない、何とも言えない」
代わりにオレが答える。
犯人にしてしまうには証拠もなにもないから。それに無闇に兄弟の仲を荒だてたくなかった。
「以前もあったんだ、助けた人間が、怪我をすることが」
「その人間は何処へ?」
「発情期に他の群 のαとツガイになって出て行った」
「……」
「けれど、俺の群 には居づらそうにしていた、…その時もレイが関わっていた可能性があったんだ…」
「そっか、少し考えないとな」
「考える…?群 を、…出るのか?」
少しトーンを落として、窺うように聞いてくる。
「ううん、此処が好きになったから、群 は出ないよ」
「そうか、」
少し安心したように頷くラウ。
「でも、シィに危険が及ぶのは…どうしたら群 のみんなに認めてもらえるか考えるよ」
「すまないな、俺が統率できていれば…」
「大丈夫、しばらくシィに付いているから、ラウは行っていいよ」
「あぁ」
ラウは後ろ髪を引かれるような様子で小屋を後にした。
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