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願い

そして傍で毎日話をする中で、最初の感覚通りいい奴で、人間味のある獣人に、惹かれていったんだ。 αで(おさ)なのに全然偉そうじゃなくて優しいし、こんなにデカくて綺麗でカッコいいのに、真面目で時々抜けててなんかかわいいし。 何より一緒にいると、安らぎを与えてくれるその包容力に癒されてる。 「…オレはラウの子なら孕んでいいって思ってるよ」 その想いを突き詰めると、そういうことだから。 「!!」 その言葉を聞いて大きく見開かれる瞳。 耳は真横に下がり、尾はピンと伸びて、驚きや喜びなどが入り混じった表情へと変わっていく。 しかし、我に返り気持ちを抑え込むように質問を投げかけてくる。 「…けれど、その、本当にいいのか?人間の世界に二度と戻れなくなっても?」 「うん、オレはもとより戻る気なんかないし、この森は還れぬ森なんかじゃなかった、還らぬ森だ」 帰れなくなるんじゃなくて、帰りたくなくなる森。 「オレはラウがいない人生なんて、もう考えられない」 「アサト…!」 その言葉がラウの胸を打ち、抑えられていた感情が溢れ出すように熱を上げ… 尻尾と腕でそっと腰を支えながら、小屋の土台の藁の上にトサっと押し倒す。 「ここで?」 組み敷く獣人の頬にサワサワと触れ微笑む。 「駄目か?」 「ううん、初めてが外でっていうのも野生的でいいかも」 「初めてなのか?」 ラウは驚いたように目を丸くする。 「うん、オレつい最近だから、発情始まったの」 「……酒でも飲むか?」 「ふ、なんで?」 「いや、少し気分がほぐれるかと、…初めてが俺でいいのか?怖くないか?」 「ちょっと怖いけど、オレは平気」 残りの人生は搾取されるだけの人生だったのに、初めての相手を選べることができる幸せ。 「俺も本当は怖い、人間の皮膚は柔らかい、すぐに傷ついてしまう…俺はアサトを傷つけたくはないから、強く触れられないでいた…」 「…ふふ、オレはΩなのに、初めてが好きな相手とできるって本当にラッキーだ。大丈夫!先人たちが交れてるから、シィが産まれたんだろうし、為せば成るってね」 不安そうな面持ちの獣人の頰に触れ、優しく促す。ラウは全てを捨てる気でオレと交わりたいって言ってくれてる、ならオレは全てを信じて受け入れるだけ… 「アサト…」 「どの道、親に売られた瞬間にオレは死んだも同然だった、ラウが生き方を教えてくれた、オレはラウに出逢えて、ラウとこうすることが出来て、心底幸せなんだよ」 たとえ、次の瞬間に死が待ち構えていたとしても、オレの人生は幸福で終われる。 下から見上げる月明かりに照らされ満天の星空を背負うラウの姿は獣そのものだが、その瞳に優しい心が宿っているのを知っているから… もう、全て任せられる。

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