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密会

この一ヶ月半で、髪は肩ほどに伸びた、風になびくその赤毛髪を手でときながら、ラウの小屋がある方を見つめる。ラウの小屋まではかなりの距離があるから肉眼では見えないが… 「元気かな…、ん?」 会いたい気持ちを抑え込み、ぽつり呟いていると、 不意に気配が… 次の瞬間、後ろからふわりと柔らかな毛に包まれるように抱きしめられていた。 「アサト…」 「っ!びっくりした、ラウか」 声でも分かったけれど、振り返りその姿を確認する。 音もなく木を登れるラウ。そういうところは野性味あふれている。 「すまない、気配を消してここまで来たから」 「ま、いいけど」 少しびくっとしたが、久々にラウに会えて喜びの方が優っている。 「アサト、会いたかった」 今度は前から太くて柔らかな片腕で抱き寄せられる。 オレを視認した瞬間から振れていた大きな尻尾が腰へ巻きついてくる。 「オレも」 腕を回してその柔軟な毛並みごとぎゅっと抱きしめる。 「会えない間、色々と考えた」 「ん?」 「掟のことや、それぞれの立場のこと、俺の気持ち、仲間のこと、一番はアサトのことを」 「答えは出た?」 「分からない、だから会いにきた」 「そっか、オレも考えたよ、」 「何を?」 「ラウのこと、どうしたいのか、どうあるべきか、でも一番は会えないと寂しいなって思った」 「アサト」 「遠吠え、いつも聴いてたよ、本当に綺麗だなって思った。オレやっぱりラウの遠吠え好きだな」 そっと大柄なラウを見上げながら、微笑み伝える。 「……アサト、俺がアサトを愛したら…アサトの身体を傷つけてしまうだろうか?」 金色の瞳が、真剣に問いかけてくる。 「ラウ…」 「アサトに俺の子を産んでほしい」 「……」 それは、事実上の求婚だ。驚いていると… 「…何度考えても、そう考えが及んでしまう」 困ったように言い澱む。 「ラウ、獣人族の掟は?」 獣人と人間は交わり合ってはならない。 まずは種族の違いが大きな隔たりになる。 「……」 「人間を孕ませたなんてことになれば、お前の(むれ)の中での地位に影響するんじゃないのか?」 ラウはこの(むれ)(おさ)だから…掟を破るわけにはいかないだろう。 「……地位は捨てられる」 「ラウ、それは駄目だ。この(むれ)(おさ)はお前しかいない」 ラウから溢れた言葉に驚く。 今の地位をオレのために捨てる、と… 驚きと、嬉しさを含んだ感情が駆けるが、緩く首を振り諌める。 「そんなことはない」 「ラウ…」 「アサトは、どう思っている?俺の想いは迷惑か?」 そう問われ改めて考えてみる。 「…ラウを初めて見た時、恐怖心ももちろんあったけど、何より美しいと思った」 もはや伝説の生物になっていた獣人族を目の当たりにして、野蛮とはかけ離れたその生き方に触れて、すぐに恐怖心より勝る感情があって… より近づきたいと思った。

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