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緊張して店に入るまで30分かかった。やっと決心して店に入ると普通のオフィス風。受付の人が俺を見て驚いてる。
…………半獣人だから?
理由は分からないけど……
「あの。707のチラシを見たんですが。」
それだけ伝える。
「奥へどうぞ。」
受付の人が笑った気がした。
奥の部屋へ行くとヤクザっぽい人がいた。真っ青なスーツに薄紫色のネクタイ。キザなメガネに金のネックレス。
「俺はいくらで売れますか?」
恐る恐る聞いてみる。
「お前は自分で自分を売りに来たのか?」
「はい……」
「借金か?」
「そうです。」
「いくらある。」
「□□□□万円です。」
「随分、使い込んだんだな。」
「今は利息もろくに払えなくて……」
「名前は?」
「青山 唯人です。」
「家族は?」
「施設育ちでいません。」
離婚後、しばらくは母さんと暮らしてたけど、生活が苦しかった事もあり、入園を前にして俺は施設に預けられた。俺のうさぎの耳を見る度、成長して父さんに似てくる度、母さんは心を痛めていたんだと思う。時々、会いに来てくれたけど、回数は徐々に減っていった。
小学校は施設から通った。半獣人という浮いた存在。小さい頃はよく虐められたっけ。でも、母さんにも先生にも相談しなかった。
良い子にしてれば、きっと母さんが迎えに来てくれると信じて疑わなかったあの頃。
年齢と共に減っていく面会。高学年になるとほとんど訪ねてくることはなくなった。流石に中学生にもなれば、捨てられたのだと分かる。
高校を出たら施設は卒業。母さんも多分、知っていたと思う。だけど、最後まで会いに来てくれる事はなかった。
すぐに就職して一人暮らしを始めた。
永遠の愛も無償の愛もどこにも無い。長い月日で自然と理解した。
俺はずっと一人。
「年はいくつだ?」
「19です。」
「お前はウサギの半獣人で間違いないか?」
「はい。」
「どちらの血が濃い?耳は消せるか?」
「多分、人間の母です……
耳と尻尾は消せません。」
獣人にも人間にも属さない半獣人。
半獣人でも獣人の血が濃ければ、耳と尻尾を自分の意志で隠せる。ほとんどの半獣人が人間に紛れて暮らしてる。
俺はどんなに努力しても耳と尻尾が消せなかった。獣人は人間に化けたり完全に獣化したり、自由自在なのに。
「性は……?」
「Ωです。」
「よし!Ωか!!」
「…………」
半獣人。しかもΩ。もう、ここまで来ると救いようがない。
出産する為だけに存在すると言われるΩ。子を孕む位しか能がないと言われ、世間の目は冷たいし、蔑まれる。
Ωは世間に嫌われてる。
Ωが喜ばれる理由なんて……
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