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「ねぇ。本当に今日くるのかな……」 隣に座ってた子に聞いてみる。 「君、『お客様』が来るの、初めてだっけ?期待しない方がいいよ。ウサギの半獣人のΩの価値なんて……」 それ位分かってる。 獣人は特別な存在だが子供を授かりにくく、なかなか子宝に恵まれない事が多い。その点、Ωの半獣人は妊娠しやすいし、遺伝子が弱いから相手にソックリの子を産む。 獣人は自分の血を守りたいと考えるものが多く、人と交わるよりも自分の血を強く残せる存在を望む。同族と番う事も多いが、ほとんどの獣人は伴侶もしくは愛人、妾にΩの半獣人に選ぶという。 中でもウサギは快楽に弱く、獣人の望む時に相手をさせられる事から人気があるのは知っていた。 つまり俺達は道具なんだ。 『子供を孕む為の道具。』 夜、ウサギの半獣人を買いにお客様が見に来るって狐が言ってた。 どんな人だろう…… あえてウサギの半獣人を買いに来るんだ。多分、獣人。 誰かと抱き合うなんて想像つかない。 セックスなんて一生したくない。 部屋を見渡すと皆、落ち着きない。 大丈夫。俺より可愛い人が何人もいる。 こんな痩せて細いのは俺だけ。きっと他の人を選ぶはず…… ずっと売れ残れば…… 毎日、三食ちゃんと食べさせてもらえるし…… ガチャ。重い扉が開き、狐が入ってきた。 「お客様だ。」 狐が一言だけ告げると、その場にいた全員が立ち上がる。俺も慌てて立った。 予想通り、獣人が入ってきた。 嫌だな。狼のαだ…… 身長は190cm近い。上質なスーツに身を纏い、洗練されたセンス。どこからどう見てもα…… 暗闇に光る琥珀色の目。鋭い牙。 漆黒の狼の顔…… 鳥肌が立つ程の捕食者のオーラ。 威圧的な雰囲気に足がすくむ。 部屋の者、皆、話さない。怯えてるんだ。これから何をされるか、分かってるから…… 獣人の慰みものになる。考えるだけで泣けてくる。 逃げられない…… 俺達は子供を孕む為だけに売られた可哀想な半獣人のΩ。 俺は自分で自分を売り、ここにいる。 …………納得してても。 やっぱり怖い…………! 部屋のウサギ達を一通り見た後、その人がゆっくり俺に近付く。 「よし。お前だ。来い。」 俺!?なんで、他にもいるのに…… 狐の獣人が言ってた話を思い出す。 経験なしだから……? 一瞬で見分けられるなんて…… 「早くしろ。」 急かす声に怖くて声が出ない。仕方なく頷く。 鋭い眼光。今にも噛みつかれそうな目線に足が震えた。 部屋の空気が安堵に包まれた。他のウサギ達は明らかにホッとしてる。 通り過ぎる時、満足そうな顔で狐がニヤニヤ笑ってた。 …………後悔しても、もう遅い。 自分の行く末を案じ、泣きそうになりつつ、ただ黙って付いて行くしか俺には出来なかった。

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