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立派な豪邸…………
何、この広さ……
あまりの広さに空いた口が塞がらない。
狼は基本、見た目はおっかないけど、番を大事にし家族を守るって聞いた事がある。
あぁ、どうか。痛い事しませんように……
「お帰りなさいませ。光牙様。」
「コートをお預かりします。」
「すぐに入浴されますか?」
広すぎる玄関。見た事ないけど高そうな絵画。
豪華なシャンデリアにきらびやかな装飾。
ズラッと並んだ執事とメイド達。
施設育ちの俺にはよく分からない世界。
「後で入るから湯だけ頼む。
番候補のユイトだ。明日、改めて紹介する。」
「かしこまりました。」
「初めまして。ユイト様。」
お辞儀をされて、慌ててお辞儀を返す。
『ユイト様』なんて初めて呼ばれた……
『番』。αとΩの間にだけある特別な絆。
性行為中、αがΩの項 を噛む事で『番』は成立するという。血縁よりも結婚よりも深い絆であり、絶対の存在になるって学校で習ったけど……
「お部屋に何かお飲み物を運びましょうか?」
「いや。今日はもう下がっていい。」
やり取りをボンヤリ見つめる。
「はい。お休みなさいませ。」
執事さん達は揃って綺麗にお辞儀をした。
番になるとお互いが特別な存在に変わり、相手を大切に思い合う。Ωは他者に無意味にフェロモンを振りまく事はなくなり、番のαのみに発情する。
噛まれたΩはαに依存する。αは何人も番を作れるが、Ωは一人としか番になれない。Ωは番のαに一生尽くすという。
…………大切に思い合う?本当に?噛んだ位で……?
『候補』って言う位だから……
合わなかったり、気に入らなかった場合は……?返品?
「脱げ。」
ここは玄関から長い廊下を抜けた大広間みたいた場所。
扉を開けられたら、どうするんだ……?
甘さも何もあったもんじゃない。冷たい声に感じる恐怖。
深呼吸してから顔を上げる。
「鍵、鍵が……こ、こ……は!いつ誰が来るか、分かりません、し!俺……!その、前にシャワーを借り、お借り……したい、のですが……」
声が震えてひっくり返った。緊張して上手く話せない。
この場合、家主が先?獣人だからシャワーしない方が興奮するとか?
無い!無い!!シャワー位、浴びさせて。ここはエチケットとして……
狼がジッと見てくる。
しまった……
怒らせた?
意見して生意気に思われた?
叩かれたりとかしたら、どうしよう。
…………怖い!
「クク……お前、敬語変だぞ。普通に話せ。
固苦しいのは嫌いだし、役割果たしてくれりゃ、別に敬語を使う必要はない。
俺は光牙 。23歳。お前、いくつ?」
あ……あれ……
意外と普通。
獣人って怖い、恐ろしい、残虐、高圧的とかマイナスのイメージしかなかったから……
役割って子作り……?本当に今から……?
急に心臓がうるさくなる。
「19歳……です。あの、俺……」
「だから、敬語はいらねぇって。
それより可愛く誘ってみろよ。」
「か、可愛……?」
経験もないのに、そんな器用な事出来ない。
本当に敬語使わなくていいの?タメ語使った瞬間に蹴られたりして……
「なんだよ。緊張してんのか?人の姿の方がいい?お前と同じ半獣人にするか。」
そう言って光牙は狼の獣人から半獣人に形を変えた。
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