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第9話

リチャードにまた会えたのは嬉しい。けれどゴミ捨てなんてさせるわけにはいかない、それこそ彼のいう通り主人に怒られてしまう。 顔を上げることができないマシューの頭に、ポンと温かいものが触れた。 「…そんな顔をするな。もし怒られたらしおらしくごめんなさいって言って相手が背中向けた瞬間にあっかんべー、してやるといいさ。俺はいつもジョージにそうしてるぞ。」 サングラスの向こうでウィンクしてみせたリチャードに、昨日出会った鬼の形相をした黒豹の獣人を思い出した。彼の背中に向かって舌を出すリチャードは何故だかすぐに思い浮かぶ。マシューはプッと噴き出した。 きっと本当にそうするのだろう。そしてジョージは一層憤慨するに違いない。そう思うと可笑しくて、マシューは堪えきれずにクスクスと小さく笑ってしまった。 すると。 「お、笑った。」 と、リチャードが穏やかに微笑んだ。 「笑ってる方がいいぞ。耳がぴこぴこして可愛い。」 「かわ、…揶揄わないでください…」 「揶揄ってなんか。まぁ勿論極一部例外はあるが、笑顔は宝だ。たくさん笑え。」 そう言ってまたぽんぽんと優しくマシューの頭を撫でてくれた。 が、しかし、マシューの脳裏に響く主人の怒鳴り声。幼い頃に何度も何度も言われた言葉。 『へらへらするな役立たずッ!お前の笑顔になんざ銅貨1枚の価値もないわッ!!』 マシューは知らず唇を噛んでボロボロのズボンの裾を握りしめた。 例え世界がΩを蔑んでも、奴隷商店では商品として価値があるΩの方が大切にされる。あの場所で生まれ育ったマシューにはその理屈もよくわかっているから、反論する気さえ起きない。かと言って商店の外に出たところで兎獣人などどこも同じような扱いだから、衣食住が与えられるあの奴隷商店から出る気にもならないのだ。 「…どうした?」 表情を暗くしたマシューの顔を、リチャードがしゃがみこんで下から覗き込んでくる。 まるで小さな子供にするように。 「言ってごらん。赤の他人だから言えることもあるだろう。話すだけでも違うぞ?」 その言葉があまりにストンと心の奥に嵌って、マシューはごくんと生唾を飲み込むと、ゆっくりと口を開く。 一つこぼれた言葉が次から次へとあふれ出るのはあっという間だった。

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