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第2話

 狭いこたつの中で体勢を変えるたびに足が当たるので、遥希は落ち着かなかった。久しぶりに一緒にいるとどうも意識してしまう。  遥希は鍋に集中する敦人をおいて立ち上がり、空いた器を洗い出した。学生向けの小さなキッチンスペースで洗ったものを一つづつ拭いては片づけながら敦人の様子を眺め、誰かと一緒に住むってこんな感じなのかなと想像した。  同じ大学に通っているけれど遥希は実家暮らしをしていた。兼業農家の家の台所はいつも祖母が取り仕切っていて、遥希はほとんど料理をしたことがなかった。そんな遥希の目からも、材料を全部一緒に入れて火をつけた敦人の家事経験値は自分と大して変わらなく見えた。 「敦人はいつも料理してんの? 調味料と食器がやけに充実してるのが謎なんだけど。」    正直、敦人が買いそうもないポップな柄の食器が混ざっていたから「彼女できたの?」と聞きたかった。でも肯定された時の精神的ダメージを考えると変に遠回しな質問になってしまう。 「あー、してるようなしてないような。皿洗ってくれてありがとう。それね、春に大学卒業した兄ちゃんが実家に戻ってきたんだけど、一人暮らしの時の皿とかを全部持って帰ってきたんだよ。それを勿体無いって母さんが取って置いてて、そのまま渡された。こたつも、この辺のも全部兄ちゃんのやつ。」  敦人はこたつの上の鍋周りをぐるっと指さして笑った。綺麗にしてあるけど新品ではなかった理由はそれかとは納得した。 「彼女と半同棲してたらしいんだけど、インテリアコーディネーターなんやって。」 「なるほど、だから敦人が買わなさそうなおしゃれな食器があるんだ。」 「そうそう、って微妙に失礼なこと言われてる気がするわ。ていうか、彼女が置いてったの、とか聞いてくれんの?」  それは冗談なのか、現実の話なのか遥希には判断が付かなかった。  どちらともともとれる表情で自分の方を見る敦人に、何とか笑顔を作って「いるの?」と返した。だめだ、きっとひどい顔してる。  口角を無理やり上げているけれど、遥希が保とうとしている繊細な何かが今にも崩れそうなのは敦人にも伝わっていた。意地悪かもしれないけれど、それを見るとどうしても気持ちのどこかにむずかゆい嬉しさが沸き起こる。 「うん?」  だから曖昧に語尾を上げながら答えて、また鍋をつつく振りをしたのだった。  そんな様子に遥希はそれ以上その話題を引き延ばしたくなかった。 「一人暮らしってどう?」 「えー、飯と掃除と洗濯と戸締りとか、まあとにかく色々面倒。でも夜中に人が来ても大丈夫だし、親に気を遣わずにしたいことができて楽しいよ。」

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