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第4話
さむっ。
敦人は背中を震わせて浅くなっていた眠りから覚めた。こたつからはみ出た上半身に遥希がかけてくれたらしい毛布がずり落ちて、あらぬ場所に丸まっている。
二人で一本ずつビールを飲んだ記憶はある。けれど酔ってたのは主に敦人で、遥希は「うち、親父も母さんも強いから、多分遺伝。」と言って赤くなることもなく飲んでいた。鍋が終わった後遥希は黙々と机の上を片付けていたっけ。それから、テレビつけてぽつぽつと話しながらぼんやりお茶を飲み、「眠いから布団入るよ。敦人は?」「んー、もうちょっとしたら。」って会話したのが午前一時くらいだったような……。
ぼんやりと思い出しながら、二つ敷いた布団の片方にこんもりとした山がある光景を不思議な気分で見ていた。
遥希が寝ると言った時に、風邪引くから切ってと頼んだのは自分だったっけ。数時間前に切ったこたつの温もりはとうに消え、暖まっていた部屋も冬の寒さの前に一気に冷え込んでいる。
暗い部屋に浮かび上がる時計の電光表示は午前二時十分。
丑三つ時か、どうりで寒いわけだよ。寝ぼけた頭で脈絡のないことを考えながらトイレに行って歯を磨く。いつもの自分の布団の上に這ってゆき、隣の布団にくるまった遥希を見下ろした。
お互い声変わり前から知ってる。今更ながら長い付き合いだ。
中一の時の林間学校では、学年全員が大広間で雑魚寝をした。夜中に目が覚めた敦人が数人の友達とこっそり廊下に出ようとした時、今夜みたいに寝ていた遥希の横を通り過ぎたのだ。廊下の薄明かりに浮かんだ寝顔になぜか引き留められた。
みんなで入った大きな風呂場で、早々と大人の身体になったやつを羨んだり、自分の身体を隠したり、見せびらかしたりして浮ついた雰囲気の中、別のクラスだった遥希と初めて話をした。数日前に切ったばかりの髪の長さが気に食わない言っていたけれど、枕の上で見るその髪型はするんとした遥希の輪郭によく似合っていた。
ずっと敦人の記憶に張り付いていたあの時のあどけない顔が目の前の遥希に重なってくる。
すっかり大人になっちゃったな。ヒゲが伸びかけている顎をそっと撫でてみた。ん、とくすぐったそうに下唇を突き出して遥希は顔を振った。あの頃と同じように警戒心の欠片もなく熟睡しやがって。こうして見る遥希は、敦人がまだ性別とか恋愛なんて意識していなかった頃と変わらない。
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