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第5話

 自分とは違う顔のラインを興味深げに覗きこむ敦人の気配を感じたのか、遥希は寝返りを打って上を向き薄眼を開けた。暗さに目が慣れるまで眉根を寄せたまま視線を彷徨わせているのが無防備で(いら)いたくなってくる。しばらく待っていると斜め上に敦人の存在を認めて、腕で顔を隠してしまった。  腕を退けたらどんな表情をしてるのだろう、というのは純粋な好奇心からくる欲求じゃないことくらい自覚している。 「敦人、まだ起きてんの? 今何時?」  掠れた声の後、唾を飲む音が聞こえた。 「ん、二時過ぎ。もう寝る。ハル、もしかして喉渇いてる?」 「や、大丈夫。」  夜独特の静けさと遠くから聞こえる車や風の音。この地方で一番底冷えする時期の深夜の布団は冷たい。身体をすべりこませたけれどなかなか暖まらなくって腕や脚を擦っていると、隣で寝がえりを打つ気配がした。 「寒い? 大丈夫?」 「大丈夫じゃない、凍え死ぬ。」  隣から笑いを含んだ声。どことなく緊張しているように聞こえるのは敦人自身が意識しすぎてるだけだろうか。 「......こっち温かいけど、入る?」  とっさに理解できず予想していなかった言葉に心臓が走り出す。  友達として言っている? この年になって友達と一緒の布団で寝るなんてことあるのか?  近づけばきっと我慢できなくなる。こんな狭いシングルの布団に入ればいやおうなしに身体は触れるのだから。  そこに入っていいってってことは、それなりに身体の距離も近くなる。自分勝手な期待を持ちつつ一歩踏み込もうとしたときに拒絶されたら取り返しがつかない、と不安もよぎる。  推理小説と違って人の心なんて読めないんだ。  「いやなら別にいいけど。」  声が微かに震えて聞こえるのは、自分の思い込みなのかもしれない。でもさっき試合を見ていた時、遥希は自然に敦人に触れていた。だから安心して顔を寄せたんだった。優しく受け入れるような空気が体のうちに蘇り、胸の奥がまた甘く震えた。これは自分の勘違いじゃないはずだ。 「いいの? やった。」  できるだけ何でもないことのように喜んでみせながら、敦人は弾む気持ちを抑えられなかった。雑魚寝した時と違う気持ちを持っている自分を遥希はどう思うのか。  間近にいるからようやく顔が見えるほどのささやかな夜の光。暗闇の中で自分の気持ちもる体温のようにに静かに伝わればいいのに。

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