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第6話

 敦人は冷たい布団の中で遥希に向かってにじり寄ってゆく。薄暗がりの中、すぐ隣でこちらを向き、掛布団を僅かに持ち上げてくれているのが見えた。自分を呼んでいる暖かい空気に素直に従って遠慮なく手足を突っ込み、身体をねじ込んでゆく。布団を支えていた腕が敦人の肩の上に落ち、するりと撫でながら引っ込んでゆく。 「あったけ。生き返るわ。」 「あっためておきましたよ、信長様。」 「お、木下藤吉郎か! 草履より足をあっためてくれ。」 「マジか、足フェチ?」 「逆だろ、俺の足をあっためて欲しい。」 「僕はやんないよ。」  冷たく言い放った遥希の顔に向かって敦人は祈るように両手を合わせて突き出した。 「えー、ハルちゃんお願いします。お手々が冷たい、お手々がちんちんする。」 「足じゃないのかよ! つか、それ久しぶりに聞いた。ごんぎつね?」 「ちげーよ、手袋を買いにだろ。ごんじゃ俺撃ち殺されるやん。」  狭いシングル布団の中で向かい合い背中を丸めてひとしきり笑うと、敦人が冷えた手を遥希の襟元に突っ込もうとしてきた。 「マジでやめ! 冷たいって!」  あまりの冷たさに逃げる遥希と追う敦人。身をよじって暴れすぎて上掛けから出てしまい、急いで引っ張り上げて身体を寄せあった。 「あぶねーあぶねー。」 「凍死するとこやったな。」  距離が近すぎるせいで二人とも気恥ずかしくって口を閉じた。遥希はぎこちなく目をそらし、うつ伏せになって腕に顎をのせ、目の前にある本棚を見る振りをした。  薄辛い部屋の中、水に変わる直前の薄い氷を指で押すような緊張感と期待。静かな時間が長くなるほど、残り時間が減ってゆく、試合終了間際みたいだ。 「ハルは一人暮らしせえへんの? 彼女できても、実家だとお家デートでエッチなことできんやんな。」 「いないし、したことないし。」 「あ……っそっか。俺も、そういえば一人暮らしやけどおらんし、したことないわ。」 随分間延びした答えに、遥希が怪訝な顔で問いただした。 「ええ? さっき彼女おるっていったやん。」 「言ってない、言ってない。いないよ。」  焦って全力で否定した敦人に、なんだよそれ、って視線をよこす。ぷつんと途切れる会話。一分にも満たない間を我慢できなくて遥希が口を開いた。 「この状況って、どっちかが女なら合意したってことになるのかな?」 「ああ? 一緒の布団に入ってること? むしろ合意なくやられちゃうかもよ。」 「襲われちゃうのか。」  どこにも着地しない会話。言葉が消えると、感情が前に出てくるんだ。それをうまくコントロールできるか、遥希にはよく分からなかった。 「じゃあさ、友達同士なら? うっかりキスとかしちゃってもこの状況なら『布団に入ったくせに』ってなるかな。」  沈黙が落ちる。それは、男女の友達の話なんだろうか。それとも今の二人のことなのか。首を動かして敦人を見ても答えはもらえない。遥希の上を一秒一秒時間が過ぎてゆく。  何秒経ったのだろうか。しんとした部屋の中で躊躇いがちに敦人が口を開いた。 「してみる?」

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