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第3話 最初の注文は牛丼の大盛でした(3)

 そして、まだ自販機のところに立っている『ヤ』のつく職業の人っぽいオッサンに、周囲は息をのんだ状態。俺だって、多少、武原さんに慣れたとはいえ、やっぱり、ビビってしまう。というか、早い所、どっかに座ってほしい。まだ、何か発券するつもりなんだろうか。  皆の視線を気にするでもなく、ジッと自販機を見つめるオッサン。身長はけっこう大きい気がする。おそらく、百九十近そうだ。とにかく、デカい。短いカットされた黒髪と、鋭い目つき。黒いスーツは分厚い胸板にはち切れそうな感じ。かなり鍛えてるんだろうな、ってのは、俺ですらわかる。  オッサンは結局、もう一枚、食券を買うと、カウンターにドッカと座った。その時、厨房から顔を出していた俺とバチンッという音がしそうなくらい、視線がぶつかった。  確かに醸しだす雰囲気は、『ヤ』のつく職業の人、なんだろうけど、正面から見た顔は、めちゃくちゃ整ってる。キリッとした太い眉に、少しつり上がった大きな目。スッと通った鼻筋に、大きめな口は、グッと引き締まってる。モデルでも通用しそうなくらい。だけど、残念ながら左側の眦に大きな切り傷の痕が残っていて、さすがに難しそうだ。オッサンの纏う雰囲気以上に、それが余計に怖い印象を与えてるのかもしれない。  俺は一瞬、オッサンとの視線に身体が強張ってしまった。本来なら、カウンターの中でお姉さんたちとおしゃべりしてた和田くんが行くべきなんだが、しっかり目があったからには、俺が注文を受けに行かねばなるまい。  ゴクリと喉を鳴らしてから、俺は密かに気合をいれると、お茶の入った湯呑を手に、オッサンのところへと足を進めた。別に、喰われるわけでもなし。つーか、この人は牛丼を食いに来ただけだ。 「いらっしゃいませ」  声を震わせずに言えたことに、内心、ホッとする。たぶん、和田くんだったら……接客すら出来なかったかもしれない。それくらい、オッサンの空気はヤバイ感じだったのだ。  コトリと湯呑を置くと、オッサンは無言で食券を二枚差し出した。 「牛丼大盛と、味噌汁と漬け物のセットですね。少しお待ちください」  食券の半券をちぎってカウンターの上に置く。その間、なぜだかオッサンは俺の顔と胸元をジロジロと見ている。  顔と名前、確認されたってことか?  それだけでドキッとする。

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