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第4話 最初の注文は牛丼の大盛でした(4)

 まだ、俺、何もやらかしてないよな?と思いつつ、だからといって、見てんじゃねーよ、と言い返せるほど、タフじゃないんで、そそくさと厨房の方へと戻っていく。額には、なんだか嫌な汗がじっとりと浮かぶ。 「牛丼大盛と、味噌汁、よろしく」 「あいよ~」  厨房の外の様子に気付いていないリーダーの宇井さんの、呑気な声に、気が抜ける。 「マ、マサくんっ、だ、大丈夫だった?」  いつの間にか厨房に戻ってた和田くんが、こそこそと話しかけてくる。 「大丈夫だけど、なんか、名札と顔、ジロジロ見られた」 「や、やだ、マサくん、なんか、やらかしたの?」 「そ、そんな覚えないよっ」  俺と和田くんは、チロリとカウンターの方へと視線を向ける。  オッサンは折りたたんだ新聞を片手に、湯呑を口に運んでる。正直、どちらかといえば場末な感じの飲み屋街の入口のそばにある店だけに、あのオッサンの大物感は違和感ありまくり。他のお客さんだって、どこか緊張したままだし。おしゃべりなお姉さんたちですら、黙々と食べてるし。 「できたぞー」 「へ、は、はいっ」  相変わらず呑気な声の宇井さんに、我にかえる。 「ほら、持ってけ」  俺たちの様子に気付きもせず、宇井さんは大盛の丼を差し出す。 「は、はい~」  顔を強張らせながら、丼に味噌汁、漬け物をトレーに乗せるとカウンターの方へと目を向ける。 「っ!?」  まさかのオッサンの視線と、ご対面。しっかり、俺を見てるよっ。すげー、怖いんですけどっ!そりゃ、武原さんで慣れてはいても、武原さんは、あんな怖い顔で俺を見たりしないしっ。あくまで、怖そうなだけだしっ。  身体が強張ってトレーを落としそうになるのを、なんとか踏ん張った俺、偉い。オッサンの顔を見ないように、丼へと目を向ける。オッサンの顔より、牛丼。オッサンの顔より牛丼……ああ、美味そうだなぁ、と思ったのは一瞬。オッサンの目の前まで行くまでの間、ずーっと、ずーっと、オッサンの視線が突き刺さりまくり。マジで穴が空くんじゃねぇか、と思ったくらいだ。 「お、おまたせしました~っ」  オッサンの目の前に置くと、すぐに背を向けるとゆっくりとカウンターから離れた。きっと猛獣の前から逃げる時って、こんな風に抜き足差し足で逃げるんだろうなって思った。猛獣相手だったら、背中なんか向けないだろうけど。  厨房の中に入って振り向いた時には、オッサンの食っている姿は、猛獣という印象とは違い、ただ黙々と牛丼を食っていた。  それがオッサン……藤崎剣(フジサキケン)との、初めての出会いだった。

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