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第5話 強面のオッサンは豚汁がお好き(1)
大学の講義が終わると、俺はいつも真っ直ぐに牛丼屋に向かう。昼時も混むけど、夕方からもかなり混みだす店だけに、急がないと結構ヤバイ。昼間だけのパートで来ている高田さんは、時間キッチリに上がってしまうから、一人いないだけで、結構大変なのだ。俺は少しばかり、速足で人ごみの中を抜けていく。
「お、お疲れ様でーす」
息をきらせながら裏口から入ると、調理場で働いている宇井さんの姿が見える。チラッと視線だけを向けて、おうっ、と声をかけてきた。俺はすぐにロッカー室に入ると、制服に着替える。店の騒めき具合で、すでにそこそこ混んでるのが伝わってくる。
「今日は混んでますね」
「おう、でもって、店長は本社に呼び出し。もう高田さんは上がっちゃってて、あすかちゃんが延長で残ってくれてる。和田っちはいつも通り遅れるらしい」
げっそりした顔をしながらも宇井さんの手は止まらない。あすかちゃんの注文の声が背後から聞こえてくる。うん、なんかヤバそう。
「げ。高田さん、早いっ。わ、わかりましたっ。あ、あすかちゃ~ん」
カウンターの中を一人テキパキ動きまわってる同じバイト仲間の小園あすかちゃんは大学四年。小柄でぽっちゃりさんの彼女だが、バイト仲間では一番仕事が出来る人。ほとんど単位が取れてるせいか、昼間からガッツリバイトに入ってる。
「おお、マサくん、来てくれた~」
それでもさすがに一人ではしんどかったのか、ちょっと笑顔が疲れている模様。年上なのに、『ちゃん』付けにしろと命令されて、素直に聞く俺。だって、怒るとマジで怖いんだ。和田くんが何度も怒られてる姿を見てるだけに、俺は逆らわないようにしてるだけだ。
「お疲れ様です。すみません、変わりますね」
「ありがとう~。今日は彼氏とデートの約束あったから、マジ、助かったわ」
「あ、あれ、あそこで待ってるの、彼氏さんじゃないっすか?」
向かい側の小さなコンビニの中、立ち読みしている若い男の人、あすかちゃんの年下の彼氏だった。俺たちの視線に気づいたのか、笑顔でヒラヒラと手を振っている。
「いやーん、もう、可愛いんだからっ」
「……あすかちゃん、急いだほうが」
「あ、うん!」
俺は半分呆れながら、あすかちゃんに帰るように促すと、満面の笑みで調理場の方に入っていったと、同時に、チラリとコンビニへと目を向ける。
「うっ!」
こ、怖いよ、彼氏くん。あすかちゃんがいなくなった途端、そんな目で俺を睨むな。ていうか、彼女のバイト仲間に嫉妬するとか、やめて。嫉妬深い彼氏くんに、毎度のことながら慣れはしない。慌てて目を逸らす俺の耳に、店のドアが開く音が聞こえてきた。
「い、いらっしゃいませ~」
強張った笑顔を貼り付けて、声を出す。自販機の前に立つお客さんを確認して、俺は湯呑にお茶を淹れる。まだチクチクとした視線を感じる気がしたが、俺は気にせずに、食券を買い終えたお客さんの元へ、湯呑を持っていった。
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