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第6話 強面のオッサンは豚汁がお好き(2)

 宇井さんの言葉通り、和田くんは予定の時間より三十分遅れて入って来た。 「和田っち、遅ーい」 「すみませーん」  全然反省の色のない声で返事をする和田くんに、宇井さんは諦め顔。最近、なかなかバイトの求人に反応がないだけに、辞められたら困るのかもしれないけど、バシッと言うときには言わないとダメだと思う。 「和田くん、マジで困るんだけど」  だから、俺はそんなの気にしない。だって、言わなきゃわかんない奴には、ちゃんと言わないと、真面目にやってる人間が迷惑するんだ。うちの母親みたいに。 「だから、ごめんって」  ヘラヘラと笑いながら着替えてる和田くんにイラっとする俺。しかし、いつまでも怒ってるわけにもいかない。お客さんが続々と入ってきているのだ。  店のドアが開くたびに「いらっしゃいませ~」と声をあげる俺たち。帰宅途中のサラリーマンから、すでにいい感じに酔っているサラリーマンの方が増えてきた。それにつられるように、水商売系のお姉さんや、ホストの姿も見える。 「あー、和田っち、注文よろしく~」 「はーい」  馴染みのお姉さんたちに呼ばれて、いそいそと出ていく姿に、溜息しか出ない。 「マサくん、ありがとね」  牛丼の入った丼を渡しながら、ボソッと労ってくれる。 「まぁ、言っても効かないっすけどね」 「俺から言っても、駄目なんだよねぇ。店長が注意してくれればいいんだけど、肝心な時に、いっつもいないっていうか」  結局、本社に呼び出されたまま、こっちに戻ってくる様子もない。何かトラブルなのか、心配でしょうがないが、店長が戻るまで、俺たちは現場で頑張るしかないわけで。 「ほい、牛すき鍋ね」 「はい~」  お姉さんたちと仲良く喋ってる和田くんをよそに、俺は牛すき鍋ののったトレーを運ぶ。サラリーマン風の若い男が携帯片手に待っているところに、静かに置く。 「はい、お待たせしました」 「……」  無言で受け取られるのは慣れた。でも、たまに、反応を返してくれればいいのに、って思うこともある。まさに、今がその”たまに”なんだろう。たぶん、そう思ってしまうくらい、今の俺は苛ついているんだと思う。  カウンターから戻る途中、そういえば、と思い出したのは、常連の宗さんのことだった。

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