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第7話 強面のオッサンは豚汁がお好き(3)

 宗さんは、俺と同じくらいの身長だけど、結構ガッチリした体格で厳つい顔をしてるおじさんだ。たぶん母さんよりも年上じゃないかって思う。スーツ着てなきゃ、土方でもやってそうに見える。  そんな宗さんだけど、飯を食ってる時は、それはもう美味そうに食ってくれる。その宗さんは目の前に食事を置くたびに、ちゃんと「ありがとな」と声をかけてくれるのだ。  いつも夕飯時から飲み屋街が盛り上がり始める時間くらいには顔を出していたんだけど、ここ最近、姿を見かけない。仕事が忙しいのか、身体でも壊したのか、ちょっとだけ気になった。  その代わりのように現れたのは、見るからに『ヤ』のつく職業のオッサンだ。宗さんと違うのは、いつも遅い時間に来るのと、『ありがとう』の代わりに無愛想に『おう』と一言だけ発すること。無言よりも、ずっといいけど、見た目通りに渋い声に、この声で命令とかされたら、絶対服従だよな、なんて思ったり。下っ端のヤツほど、ビビッて言うこと聞きそう。と考えて、自分が命令されてる姿を想像してしまって、勝手に情けなくなった。まぁ、反発するとか、無理でしょ。俺には。素直に使いっ走りしてそうだ。  そんなことを考えてたせいか、今日もオッサンがやってきた。 「いらっしゃいませ~」  さすがに顔を覚えたせいか、初めての頃に比べれば、逃げ腰にはならなくなった。和田くんは相変わらず、お姉さんたちにへばりついて、オッサンの相手をしないで済むようにしている。お客さんには変わらないのに、と思いながらも、あの迫力じゃ、逃げたい気持ちもわからないでもない。  オッサンが頼んだのは牛丼の大盛に豚汁のセット。最近は、これがブームらしい。俺も豚汁は好きだけどな。  カウンターに座ったところで、俺はいつも通りにお茶を持っていく。カウンターの上には食券が無造作に置かれてる。 「牛丼の大盛と、豚汁のセットですね。少しお待ちください」  食券の半券をちぎって置くと、俺は厨房の方へと戻る。そのたびに、背中がゾクッとしてしまう。これは、オッサンから向けられる視線のせいだってのは、もうわかってる。  なんでか知らないが、睨みつけるような目で見られてるのに最初に気づいたのは、和田くん。オッサンが来るようになって三回目くらいに、「マサくん、やっぱ、何かやったんじゃないの?」と聞かれたのだ。  そしてオッサンが俺を見てるのに気付いたのは、和田くんだけじゃなく、馴染みのホステスのお姉さんたちもだった。

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