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第10話 若頭は紅ショウガを大盛にする(2)

 オッサンが出て行って少し経った頃。この時間には珍しく、一瞬、お客さんの姿がなくなった。雨足がよっぽど激しくなったのかな、と、カウンターから出て外を見に行こうかとした時、店の自動ドアが開いた。 「いらっしゃいま……せ」  元気に声を出したつもりが、途中で勢いがなくなったのは、ドアから現れた男のせい。まるでメンズのファッション雑誌か何かから出てきたようなモデルばりのイケメンが、そこに立っている。二十代後半ぐらいか。ビシッと決まったシックなスーツに、緩いウェーブがかった茶色い髪を綺麗に撫でつけ、冷ややかな感じの整った顔立ちが無表情に店内を見回している。  すげー、場違い感半端ない。俺があっけにとられていると、その男の後ろから、黒服にサングラスという、怪しげな男の定番みたいなのが現れた。 「坊ちゃん」 「ん、ああ、この店は食券を買うのか」  黒服に促されて、『坊ちゃん』と呼ばれた男は、おもむろに財布をとりだして自販機の前へと進む。  その様子を見て、俺は慌ててカウンターの中に入ると、湯呑の準備に取り掛かる。厨房の方を見ると、店長は気付いていなくて、和田くんは俺以上にびっくりした顔をして固まってる。そんな和田くんに、少しイラっとしつつも、俺は湯呑をトレーにのせると、カウンターの方へと視線を向ける。  いつの間にか、もう一人、男が増えていた。黒服とは対照的なギラギラしたピンストライプのスーツの見るからに悪そうな感じのデブ。まるで線のような糸目とスキンヘッドが余計に悪そうな感じを演出してる。  カウンターに座ってるのは『坊ちゃん』と呼ばれた男だけで、あとの二人はその背後に立っている。この三人の組み合わせの異様さに、足が竦む。イケメンと黒服の組み合わせだけだったら、どっかの社長とその部下的なものを想像したけど(それでも、この店にいるのは違和感しかないけど)、デブが加わって異様さ倍増。何者なのか、ぐるぐる頭の中で考えちゃうけど、しかし、いかねばなるまい。俺はゴクリと唾を飲み込むと、注文を受けるために『坊ちゃん』たちのほうへと向かった。  「いらっしゃいませ」  俺は三人分の湯呑を目の前に並べた。座ってなくても、お客さんには変わりはない。声も手も震えていなかったことだけは、自分を褒めたい。  食券を差し出したのは『坊ちゃん』ではなくて黒服で、牛丼の並を一つのみ。 「牛丼、並ですね。少しお待ちください」  そう言って、半券を残してその場から逃げようとした時。 「ちょっと、君」  声をかけてきたのは『坊ちゃん』だった。

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