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第11話 若頭は紅ショウガを大盛にする(3)

 まさか声をかけられるとは思ってもいなかった俺は、危うく「ヒッ!」と声を上げそうになった。オッサンの場合、オッサンのほうから声をかけてくることはない。だから、例え『ヤ』のつく職業だとしても、気にせずに接客できたんだと思う。しかし、この三人の怪しさは、オッサンの比ではない。というか、『坊ちゃん』の背後に立ってないで、隣に座れ、と思ってしまう。他のお客さんに迷惑だろう……そもそも、入って来ないけど。というか、この人たちのせいで、誰も入って来れないんじゃなかろうか。  俺は顔を強張らせながら『坊ちゃん』の方に振り向く。 「は、はい」  さすがに接客用の笑顔は浮かばない。引きつった顔をしている自覚はある。『坊ちゃん』はそんな俺には無関心な様子で、言葉を続けた。 「この店、女の子はいないのか?」  その言葉に、一瞬、クエスチョンマークが頭に浮かぶ。まさか、この『坊ちゃん』、うちの店をキャバクラかなんかと勘違いしてるのか?いやいや、これでも一応、うちの店はそこそこのチェーン店。そういう店ではないことは、誰でもが知っている。そんな勘違いをするはずがない。 「飲み屋街の中なんで夜の遅い時間までは、さすがに女の子は勤務してません」 「あ、そう」  俺の言葉に眉間に皺を寄せて、『坊ちゃん』は何やら考え始めたようだ。これ以上、変なことを聞かれたくなくて、俺はそそくさと厨房へと戻る。 「牛丼並、一丁」 「あいよ」  店長のいつも通りの返事に、ホッと息を抜く。気が付くと、和田くんは相変わらず固まっている。 「和田くん、カウンター拭いてきて」  俺が声をかけてもピクリとも反応しない。俺はペチリと和田くんの頭を叩いた。 「うおっ!?」 「ほら、カウンター」 「うぇっ?あ、はい」  差し出された台布巾を受け取ると、ジリジリと端の方から拭き始めた。オッサンの時もそうだけど、和田くんって、あの手の人たちに対して、動きがおかしすぎ。あまりに変すぎて、思わず笑いそうになるのを堪えたせいで、口元がむにむにしてしまう。 「何やってんだあいつは」  出来上がった牛丼を片手に、店長は呆れたような声を出す。俺はそれを受け取るとトレーの上にのせた。 「今いるお客さん、すげー美形なんですよ」 「美形?……おお、確かに。でも、後ろに立ってるやつらのほうが、インパクトあるな」  意外に普通な店長の言葉に素直に頷くと、俺は『坊ちゃん』たちの方へと向かう。 「牛丼並です」  目の前に置いた牛丼並。特別なものでもなんでもない。普通の牛丼。その牛丼が、このモデルばりのイケメン『坊ちゃん』の前に置かれることの違和感が半端ない。こういう人でも牛丼を食うのか、と不思議に思ってしまった。

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