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第13話 閑話:オッサン、牛丼屋に通い始める(1)

 親父が病院に搬送された、という連絡が来たのは、若頭と共に新しく出来たという高級クラブに顔を出していた時だった。  オープン間もない時間帯のわりに、客がそこそこ入っていることと、クラブの中でもお気に入りの女が傍らに侍っていることもあってか、若頭も満更でもない様子だった。 「どうした」  電話を終えて店の中へと戻ると、若頭が不審そうな顔で問いかけてくる。若頭お気に入りのホステスと和服姿のママに挟まれ、ラグジュアリーな革製のソファに長い脚を組んで座っている姿は、どこかのメンズ雑誌に出ているようなモデルのよう。茶髪にウェーブがかった髪をなでつけ、整った顔立ちに、まだ独身で二十八という年齢、武原組の若頭という立場から、女たちからの熱い視線が集中している。  若頭への呼び出しか何かと勘違いしたのか、二人の女の顔の瞳には、貼りついたような笑みとは真逆の、『まだ帰らせない』という意地のようなものが薄っすらと浮かんでいる。 「大丈夫です」  別に女たちに気を使ったわけでもないが、俺は余計なことは言わずに、普段通りに表情を抑え込んで答える。若頭……組長の息子の武原一政は、そんな俺の様子に、ふん、と鼻で嗤うと再び女たちへと上機嫌な顔を向けた。  電話をしてきたのは、親父が昔から面倒を見ている若いのからだった。慌ててかけてきた電話は、まったく要領を得ないものだったが、どこの病院にいるのかは把握できた。腕時計を見ると、まだ八時前。面会時間にはまだ間に合うだろう。  若頭の傍に立っていた、万年黒服にサングラスの五十嵐に目配せをする。俺の意図が伝わったのか、五十嵐が小さく頷いたのを確認すると、若頭には何も言わずにそのまま店を出た。  店の外にいる護衛役の沢田に、少しだけ外すことを伝えると、呑気に「いってらっしゃ~い」とひらひらと手を振る。いつものことだけに気にせずに大通りに出ると、俺は近くに止まっていたタクシーに乗り込んだ。 「永光会病院まで行ってくれ」  病院までの道のりは大した混雑もなく、すぐに着いた。まだ面会時間内のせいか、見舞客の姿がチラホラ見える。そんな中、俺は親父の居場所を知るために、受付に残っている女性の看護師のところへと向かう。俺の外見に顔を強張らせる看護師。しかし、そこはプロなのだろう、すぐに親父の居場所を教えてくれた。

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