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第17話 母親は山ほどのケーキに困惑する(1)

 母親のみわ子から、メールでの連絡がきたのは、大学のカフェテリアで売店で買ったおにぎりを食べてた時だった。俺のお気に入りは昆布の佃煮。次が明太子。売店で売ってるのは、手作り感満載で大き目なのがいい。ゴクンと飲み込んだ後、携帯の画面を見て、つい、呟いてしまった。 「むぅ?バイト行く前に顔出せ?」 「誰?」  同じテーブルに座ってる、次の講義を一緒に受ける天童がサンドイッチを食いながら聞いてきた。サラリとした黒髪を七三に分けて、身体の線の細さと眼鏡をかけた姿が、若干(いや、だいぶ?)ヲタクっぽい雰囲気を醸し出してる。実際は、どうなのかは知らないけど。 「母親」 「なんだ、親離れできてないマーくんですか」  俺の言葉にそう言って揶揄うのは、天童と同じく、一緒に講義を受ける海老沢。すでに飯を食い終わって携帯を弄りながら、ニヤニヤしている。  こっちは俺と同じような茶髪に短髪で、片耳にピアスをしたチャラ男風。俺や天童と違って、背がデカいのがムカつく。毎回、くだらないことで揶揄ってくるのもムカつく。だからといって、こいつに合わせるつもりはない。 「ハイ、ソーデスネー。親離れできないマーくんでーす」  棒読みで返事をしながら、俺はみわ子のことを考えていた。  こんな時間にメールを送ってくること自体、珍しい。この時間、みわ子はパートで百貨店の食品売り場、それもお惣菜コーナーで売り子をしているはずなのだ。一番の混雑の時期に、よくメールを送ってこれたものだ。それくらい、何か、逼迫したことでもあったのだろうか。 「マーくん、ムカつく」 「海老沢、いい加減にしろよ」  溜息をつきながら、食べ終えたゴミを小さなビニールにまとめる天童。俺のおにぎりについてたラップまで引き取ってくれてる。 「テンちゃん、酷ーい」 「はいはい、酷くて結構。海老沢、彼女と待ち合わせしなくていいのか」 「あ?彼女?」  チャラ男風の海老沢は、見てくれの割に、結構真面目に付き合ってる彼女がいた。同じ高校から一緒に進学してきたはずで、そういえば、この後の講義はその彼女も取ってたはず。いつも、俺と天童で「リア充爆発しろ」と文句を言ってたのだが、今日は珍しく、俺たちと一緒にいることに気が付いた。  俺と天童の視線が海老沢に向く。海老沢は「あー」と声を上げながら、上を見る。カフェの高い天井には、なにがあるわけでもないのに。そして、スッと俺たちの方に真面目な顔を向けた。 「別れた」 「え」 「ぇえっ?」  つい、先週まで、同じ講義に仲良く来てたのに。俺と天童は、思わず口をあんぐりと開けて海老沢を見つめた。

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