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第18話 母親は山ほどのケーキに困惑する(2)

 海老沢は俺たちの反応に、不服そう。口を尖らせて、俺たちを睨みつける。 「もう、何だよー。仕方ないじゃーん。他に好きな奴が出来たって言うんだしー」 「な、なんだよそれ」  天童が青白い頬を怒りでピンク色に染めて、筋違いだとわかっていても、海老沢に文句を言う。いつも、海老沢たちを見て、羨ましそうにしてたのを、俺は知ってる。  俺も天童も、中性的な顔のせいか、背が低いせいか、女子たちからは可愛がられても、男として見られた試しがない。だからいつも二人で、ブツブツと文句を言ってたものだ。  だけど、こんなチャラ男風の海老沢だけど、彼女のために、頑張ってこの大学に進学してきたという話を聞いていた。それだけ一途に想ってたってことだ。そういう相手がいるだけでも、十分に羨ましい。  それなのに、その一途に想ってたはずの彼女と別れてしまったとか。俺たちの理想みたいな存在だっただけに、俺も天童も苛立ちを隠せない。 「いいって、いいって」  それなのに、肝心の海老沢は、思ったよりも引きずっていないらしく、俺と天童が苛立ってる様子をヘラヘラと笑ってすらいる。そんな海老沢に、天童一人が、いつも以上になんだか憤っている。 「まぁ、俺も~、ちょっと気になるヤツいるから、おあいこってことで」 「マジで!?」 「ちょっ、海老沢、そうなの!?」  俺たち二人は身を乗り出して聞いてしまう。海老沢は鼻歌交じりに、ニヤリと笑って天童に目を向ける。その思わせぶりな視線に、天童は困惑した顔をする。 「まぁ、相手は気づいてないっぽいけどぉ」 「そ、そうなのか」  海老沢の言葉に、どこかホッとしたような返事をする天童。まぁ、非リア充仲間が増えたのだ。今まで目の前で見せつけられてた俺たちにしてみれば、ある意味、平穏が訪れるというものだ。片思い、上等。応援だけなら、いくらでもする。 「まぁ、頑張れよ」  俺の言葉に、海老沢は満面の笑みを浮かべて、「頑張る~」と呑気に返事をする。その視線はやっぱり、天童を見つめてる気がするし、なぜか、天童が青ざめた気がする。  人の流れが出てきた。皆、次の講義へと動き出したようだ。俺は、カフェテリアの壁にかかった時計に目を向ける。 「やべ、そろそろ行かないと席なくなるぞ」 「おお、急ごうかー」 「……」  俺たちは、慌てて教室へと向かった。

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