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第21話 母親は山ほどのケーキに困惑する(5)
ご機嫌で帰っていくおっさんの後ろ姿を、困った顔で見送っていたみわ子に声をかける。
「みわ子」
「ああ、政人」
困った顔が一変、ホッとしたような嬉しそうな顔に変わる。
「今日は早いのね」
「うん、ちょっとね」
学費を借金して出してもらってる身の上、さすがにサボったとは言えない。なんとか笑みを浮かべながら、ガラスケースの前に立つ。
「あの人?」
俺の言う意味がわかったのだろう。みわ子はやっぱり困ったような顔をして、手にしているケーキの箱を持ち上げてみせる。
「そうなのよ。なんだって、こんなにケーキばっかり。いつもたくさんコロッケを買っていってくださるんだけどねぇ」
そう言ってるみわ子の後ろから、同じような黒いエプロンに三角巾をしたおばあちゃんが現れた。さっき大きな袋を持って出てきた人だ。
「ありゃ、みわ子ちゃん狙いでしょうよ」
「な、なに言ってるのよ、ヤスコさん」
したり顔で言うおばあちゃんに、みわ子は慌てたように言う。まぁ、俺だって気づくんだもの、おばあちゃんの言う言葉は、外れではないはずだ。
「だって、ここのところ毎日じゃないかい。まぁ、あれだけ特上コロッケを買っていってくれるんだから、ありがたいけどさぁ」
「え、毎日?」
俺が驚いた顔でおばあちゃんに言うと、真面目な顔してうんうんと頷く。
「そうなんだよ。なんでも、どこだかいう建設会社の社長だっていうんだけど……ありゃ、どう見たって堅気には見えないよねぇ」
「……ヤスコさんってば」
みわ子が窘めるように注意するけど、おばあちゃんは気にせずに、俺の方を見てこう言った。
「あんなんがお父ちゃんとかになったら、大変だよ」
「……はぁ」
「ヤスコさんっ」
みわ子が慌てておばあちゃんの名前を呼ぶ。おばあちゃんは、ペロッと舌を出したかと思うと、ニヤニヤしながら奥へと戻っていく。みわ子は、ただ苦笑いだけ浮かべてる。
……マジであり得ないし。俺は、そんな未来を想像したくもなかった。
そして結局、そのままケーキの箱を渡された。
「厨房の冷蔵庫にまだ残ってるのよ」
ごめんね、という顔で俺にケーキの箱を手渡される俺。素直に捨てればいいものの、貧乏性が抜けない俺たち親子には無理な話なんだよな。結局、仕方なく、ケーキの箱を持ってそのままバイトへとやってきた俺だった。
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