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第26話 チンピラはつゆだく牛丼に塗れる(2)
おっさんはゆっくりと俺のほうに歩いてくる。どこか不機嫌そうな顔と、醸し出す雰囲気に、のまれる俺。足が地面に貼り付いてしまったかのよう。
「俺に何か用か」
うちの店に来ても大して話もしないで黙々と食べるおっさんが、初めてまともに声をかけてきた。なんつーか、ガタイにぴったりの渋くて大人な感じの声。不機嫌なのかと思ったけど、声はそこまで怒ってる風でもなく、怖くない。むしろ、ちょっとだけ、憧れる。うん、ちょっとだけ。俺みたいな細っこいのには無理なのは、自分でもわかるし。
「は、はい、あの」
言葉を続けようとして、つい周囲の視線を気にする俺。別に誰が見てるわけでもないんだけど、大きな声で話すような内容でもない。俺は、ツツツーッとおっさんのそばに近寄った。微かなタバコの匂いと、ウッディな香水の匂い。クソっ。やっぱ、大人の男って感じだ。カッケェな。
「あ、あのっ、『武原組の藤崎さん』で合ってます?」
おっさんの隣に立ってコソリと問いかける。合ってますよーにっ!
言葉にするだけで、かなりドキドキしてしまう。そんな俺のことなど知るわけもなく、おっさんは一瞬、目を見開いたと同時に、突き刺さるような鋭い視線を俺に向けた。
――ヒーッ!怖いっ!
情けない声を上げなかった俺を褒めてくれ。愛想笑いすら浮かべてる俺って、スゴイ。
「だったら、何だ」
一段と声のトーンが下がる。なんか、俺たちの周囲の気温、下がってませんかーっ!
「え、えと……」
俺は視線を泳がせた後、ゴクリと唾を飲み込む。言え、言うんだ、俺!
「あの……た、武原さんと連絡とりたいんですがっ……」
目を瞑ってなんとか声を振り絞る。声が掠れて震えてるのは許してくれ。これが俺の限界だっ。
「……わかった」
少し間を置いてから、おっさんの声が不服そうながらも、そう答えてくれた。
半分は期待してなかった。おっさんが本当に武原さんの関係者だって確信が持てなかったから。でも、もう半分は、そうであって欲しいと期待してた。だからおっさんの返事に、単純にホッとした。
「よ、よかった……」
安心したせいで、足から力が抜けそうな感じになる。俺はなんとか両手で膝を掴んで、自分の身体を支えた。
その時は気が抜けたせいで、完全に頭が回っていなかった。なんでおっさんが、俺みたいなガキがいきなり武原さんと連絡をとろうとしたことを、こんなにあっさりと認めてくれたのかまで、考えることなんて出来なかった。
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