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第27話 チンピラはつゆだく牛丼に塗れる(3)

 そして俺は、大学の傍にある居酒屋に来ている。ここはランチタイムにも営業してて、大勢が使える座敷や個室とかもある。昼間っから呑んでるヤツもいるけど、俺はそんなに酒が強いわけでもないし、今日も夕方からバイトの予定だから飲むわけにはいかない。  俺たちは四人掛けの個室に二人で座っていた。目の前にいる武原さんは、細いピンストライプの入ったダークスーツがビシッと決まってる。綺麗に撫でつけられた髪には、所々に白髪が見える。個室の両サイドの部屋には、しっかり武原さんの部下っぽい人が入ってるらしくて、オーダーをとりに来てた男性は、若干、ビビってた。気持ちはわかる。俺もビビってる。  俺は煮魚定食、一方の武原さんは焼肉定食のそれも大盛を注文した。俺の親父くらいの年齢なのに、ガツガツ食べる様子には、びっくりする。武原さんは年齢とか関係ないんだなぁ、と、つくづく思う。  そして俺は煮魚をつまみながら、みわ子が変なおっさんに絡まれてるという話を淡々と話した。   「……芦原ね」 「……知ってるんですか?」  武原さんの言いっぷりに、俺は漬物を口に運ぼうとして箸が止まる。 「いや……知り合いにも同じような名前のがいてね」 「そうなんですか」  武原さんは、天井を睨みつけるような顔で、何やら考え込んでいる。 「この前見た時は、なんか部下なのか、ボディーガードなのか、なんか、そんな感じの男が二人ついてたんです。それに……」  俺は一瞬、言葉を濁す。 「ヤクザみたいだったってか?」  どこか揶揄うような言い方に、俺は参ったな、と眉を下げるしかない。 「……すみません」 「いや、構わない」  クスリと笑う武原さんは、本当にイケオジだ。この人が、俺の本当の父親だったらよかったのに。例えヤクザだったとしても、こんな風に親身になってくれる人だったら、みわ子だって、あんな苦労をしなくてよかったのに。そうつくづく思う。そして視線は、武原さんの左手の薬指に目が行く。そこには太い金の指輪が鈍く光っている。   「とりあえず、その相手やらについては、俺の方で調べておく。政人は心配しなくていいからな」  いつの間に食べ終えていたのか、武原さんの焼肉定食はすでに綺麗になくなっている。 「お前はゆっくり食ってけ」 「は、はい」  くしゃりと俺の頭を撫でると、ニヤリと笑って注文票を手にさっさと個室から出て行った。 「くそっ、武原さんも、やっぱ、カッケェな」  あんな風な大人な男になりてぇっ! と身悶えしながら、俺は煮魚を始末するべく、箸を動かし続けるのだった。

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