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第46話 オッサンとの距離感に困惑する俺(3)
――朝だ。
うん、たぶん、朝。カーテンの隙間から、薄く日差しがこぼれてる。
しかし、今のこの状況はどういうことだ?
昨夜は、結局、シャワーの後、おっさんのグレーのトレーナーにハーフパンツ(俺がはくと、悔しいことにハーフじゃないんだが)をはいて、薄手の毛布を借りてソファで寝させてもらったはずなんだが……ここはソファではなく、ベッドだ。そして、重い腕が俺の胸の上に乗っていて……いや、これは抱え込まれている、が正しいか。
――なんで、俺はおっさんに抱きかかえられてるんだっ! それも、おっさん、上半身裸だぞっ!
今の状況を考えようとしてるんだけど、頭が回らない。いや、ぐるぐるしてる。どういうことっ!?
「……んんっ? ああ、起きたか」
ぼそりと俺の頭の上のほうから、少し枯れた低いおっさんの声が聞こえる。そおっと見上げると、無精ひげが生えてる顎が見えて、その上には、まだちょっと眠そうな眼差しが見える。
「お、お、おはようございますっ」
ひっくり返った俺の声に、おっさんはなぜだかふにゃりと笑みを浮かべてる。
ねぇ、おっさん、もしかして、まだ寝ぼけてたりする?ねぇ、寝ぼけてるよね?うん、そうだよねっ!!
頭の中では、思い切りおっさんに問い詰めてるけど、声になんかなるわけがなく。俺はなんとか笑みを浮かべながらも、そろり、そろりと、おっさんの腕の中から抜け出ようとしたのだが。
「んぎゃっ」
おっさーんっ!
抱き寄せないでぇぇぇっ!
「まだ、早いだろ、もう少し寝てろ」
ぎゃぁぁぁっ!おっさんの分厚い胸に抱き寄せられてるよぉっ!どゆこと?ねぇ、これ、どゆことっ!?
俺は完全にパニックになっていた。相手がヤクザで寝ぼけていようが、ここから抜け出そうと、力いっぱい這い上がろうとしたけど、上からは無理。仕方なく、今度は下からずりずりっと這い降りる。グレーのトレーナーは、まるでさなぎの抜け殻みたい。
そして完全に抜け出ようとした時、目の前に思い切りテントをはったジャージが現れた。
……はい、朝勃ちですね。ええ、男ですから、わかります。しっかし、ずいぶんとご立派な……
でもね、この状況で目の前に差し出されたら、血の気が引くというか。別のことを想像しちゃうというか。完全に固まる俺なわけです。
「なんだ、政人、朝から積極的だな」
もう完全に目が覚めていたのか、おっさんがクククッと笑いながら、上半身を起こして俺を見下ろしている。いや、さすがです。鍛えられた上半身。必死に抜け出そうとして気づかなかったけど。
「な、何言ってるんですかっ」
「なんだ、咥えてくれるんじゃないのか」
「く、咥えるわけ、ないでしょうがっ!」
俺はそう叫ぶと、寝室から飛び出していた。
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