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第52話 お嬢の我儘と貞操の危機(2)

 若頭が来た次の日から、おっさんは毎回、俺が仕事が終わる時間には従業員出口で待っていて、駅まで一緒に帰るようになった。食べに来ない日でも、帰る時間には必ずいるのだ。完全に『お嬢様』? 『お姫様』? 扱いだ。  俺、背が低くたって、こう見えても成人してるし、子供じゃないぞ? なんか過保護過ぎないか? なんでだ? と疑問に思いつつも、突っ込んで聞けない。そこは俺の迫力負け。  その上、俺のペースに合わせて歩いてくれるけど、駅に着くまではお互いに無言。そもそも、何を話していいかなんてわかんない。 「気を付けて帰れよ」  改札口を抜けたところで、渋い声でそう声をかけられて、ペコリと頭を下げて別れる。ここまでが、俺のバイト帰りの定番のパターンと化してしまってる。  これでいいんだろうか? と思わないでもないが、結局は何も言えないのだ。ヘタレとの自覚はあるので、ツッコミは勘弁してほしい。  その一方で、若頭は来なくなった。よっぽど俺がおっさんの『オンナ』というのを知ったことが嬉しかったのだろう。俺は『オンナ』のつもりはまったくないんだが、若頭には『オンナ』認定されてしまった。悔しいけれど、それを否定する機会がない。あっても、きっと若頭に流されるのが想像つく。  しかし……このおっさんのお迎えが、拍車をかけるというか。  さすがに店長は言わないけど、バイト仲間での揶揄いネタとして定着してしまったのが悲しい。特に、原さんや和田くんから面白おかしく話を聞いているあすかちゃんなんて、目をキラキラさせて、交代のタイミングのたびに言うのだ。 「どう?その後の進展は?」 「進展も何も、元々なんにもないですからっ!」  今日もイキイキした目で帰りがけに声をかけていく。もう、勘弁してほしい。ゲッソリした顔をしながらも、俺は「お疲れ様でした」と最後には声をかける。俺の方がすでに疲れてる気がする。 「お疲れ~!」  俺とは反対に、どこにも疲れを見せないような声で返事をして出ていくあすかちゃんを、従業員出口で迎える年下彼氏。今までは毎回睨まれてたのに、俺と視線を合わせようともしない。今では完全に無視だ。まぁ、直接悪意のある視線をぶつけられるよりかは、よっぽどもマシか。俺が『オンナ』扱いされてよかった、と唯一思える瞬間だった。  特に目立ったトラブルもなく、平穏といえば平穏な日常に、俺はちょっと気を抜いていたかもしれない。そんなタイミングで、面倒ごとってのは起きるものなのだと、つくづく思い知らされることになる。

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