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第53話 お嬢の我儘と貞操の危機(3)
いつも通りの大学からの帰り道。講義が終わった直後に天童と海老沢に捕まったせいで、若干遅刻気味。というか、天童と海老沢のイチャイチャに巻き込まれることが増えた。というか、完全に天童が押され気味。頑張れ。
俺の方はありがたいことに、『オンナ』騒動は大学までは波及していない。おっさんが大学までは顔を出していないせいでもある。まぁ、大学まで来る理由ないしな。
慌てていた俺は早足になっていた。
「きゃっ」
人通りの多い道を縫うように歩いていた俺。いきなり、ぽすん、と俺の右肩に頭をぶつけてきた女の子が、声をあげて倒れ込んだ。
どこから降ってわいたんだ、と思うくらいに突然で、早足だった俺も、足を止めるしかない。
「だ、大丈夫?」
通りすぎそうになってた俺だったけど、振り向きながら倒れた彼女に声をかける。
たぶん、中学生くらいだろうか。スカートの丈がちょっと短いセーラー服に、三つ編みにした少し明るい髪、眼鏡をかけた真面目そうな印象の女の子。
この時間に中学生がうろついてるのに疑問を持ちつつ、そういえば駅前に進学塾があったことを思い出す。そこにでも通っているのだろう。
「だ、大丈夫です」
俯いてそう言いながらも、なかなか立ち上がらない。本当だったら、そのまま放置してしまいたいくらいバイトの時間に遅れそうだったけど、さすがにそこまで鬼畜にはなれず、俺は片手を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
俺の手を見てポッと頬を染めるあたりはカワイイな、とは思うけど、あくまでも中学生のお子様な感じの『カワイイ』だな。指先だけつまむようにして立ち上がる。というか、これでよく立ち上がれるよな、と不思議に思う。
彼女はパタパタとスカートについた汚れを手で叩く。納得いくまで叩いた後、今度は俺の顔を見てから、「ありがとうございました」と礼を言ってきた。その時の俺をジッと見てくる視線が、なんとも力強い感じで、もしかして、知ってる子? かとも思ったが、俺の記憶には、そんな年頃の女の子はいない。牛丼屋に来るような世代でもないし。
「じ、じゃぁ」
ちょっとだけ気にはなったけど、バイトの時間が押し迫っていただけに、俺は牛丼屋へと向かうために背を向けた。その瞬間、ヒヤリとした感覚が背中を這い登る。慌てて振り向くと、そこにはすでに女の子の姿はなかった。
「な、なんだったんだ。いったい」
俺はブルッと身体を震わせると、そんな場合じゃない、と慌てて店へと走り出した。
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