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第56話 お嬢の我儘と貞操の危機(6)

 いつの間にか激しい低音が止まっていた。 「お疲れ様~」 「あっち~っ」  いきなりドアが開き、現れた数人の男たちに、俺はびっくりしたまま目を向ける。見るからにバンドマンってのはわかる。 「あ? えーと、この状況って」  俺と最初に目があった、先頭で入って来た男が、困惑気味に聞いてくる。 「た、助けてくださいっ」  俺が慌ててそう声を出すけど、男たちは俺なんかには目を向けず、みゆたちへと視線を向ける。 「マスター、どういうこと?」  先頭の男が三白眼に問いかける。まさかの、マスターとか。こんな物騒な顔してるのに。  すると、みゆが顔をくしゃりと泣きそうな顔になる。 「ごめん、ちょっと……身内のことでね」 「身内って」  別の男が心配そうに聞いてくる。バンドマン全員、もう完全に、みゆを姫扱い。彼女の話しか聞く気がない。魅了の魔力でもあんのかよ、この女は。 「うん……こいつ、ママの再婚、邪魔してるの……グスッ……男のくせに、新しいパパに纏わりついてて……」 「なにそれ。みゆっち」  みゆはあからさまにウソ泣きしてるのに、男たちの空気は、どんどん俺に不利になっていく。状況の悪化に、俺は血の気が失せていく。 「ち、違うって」 「うっせっ!」 「んぐっ!?」  否定しようとしたら、三白眼が俺を蹴飛ばした。その勢いで壁に勢いよくぶつかる。思い切り、肩がぶつかる。 「ちょっと、ちょっと、暴力は止めなよ」  バンドマンの中の一人、黒の細いパンツに、黒のTシャツを着たほっそりとした男が、三白眼と俺の間に入ってきた。 「あ? ああ、トシキは、こういうの好きなんだっけ?」 「ん~、男も女もイケるけど。まぁ、カワイイ顔してるんじゃない?」  目の前にしゃがみこんで、俺の顎をつかんで顔を左右に動かしてから、ニッコリと笑う。 「ねぇねぇ、みゆっちのパパなんかより、俺と遊ばない?」 「な、何、言ってんだよっ」  俺は気色悪くて、思い切り首を振る。完全に鳥肌モード。 「ふーん、俺、暴力とかは嫌いだけど、気に入った子、苛めるのは好きなんだよねぇ」  指先で俺の頬を撫でながら、舌なめずりする。目付きが獲物を狙うそれみたい。俺は、恐怖でずりずりと逃げようとするけど、トシキと呼ばれた男は、ニヤニヤしながら俺を追い詰めてくる。 「なになに、トシキくんって、こんなの好みなのー?趣味悪~」 「みゆっち、大きなお世話」 「じゃぁ、それ、トシキくんにあげるから、後始末、よろしくね~」  みゆは満面の笑みで部屋から出て行こうとする。 「みゆちゃん、俺との約束は」 「ちゃんと始末出来たらって、いったじゃん」 「そんなぁ」  三白眼は不機嫌そうに追いかけていき、その間にバンドマンたちも完全に俺の方なんか見向きもせずに部屋から出て行こうとする。 「ちょ、ちょっと」  身体を起こそうとした俺の肩を、トシキがガシッと掴んで壁へと押し付ける。 「ああ、トシキ、鍵、置いとくから、終わったら閉めとけよ」 「は~い」  三白眼の声に、吞気に返事をするトシキ。そして、俺の顔を見てニッコリ笑う。 「じゃ、もう少し、俺の相手、しようか」 「え、えぇぇぇっ!?」  ……俺、貞操の危機です。

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