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第58話 閑話:怒るオッサン、夜の街を走る(2)

 組長には「後で話を聞かせろ」と言われたが、若頭との話の後、すぐに外出してしまったせいで、そんな時間は来なかった。 「藤崎さん、お電話っす」 「誰からだ」 「池中組の組長からでして」 「……俺にか?」  事務所のソファで週刊誌を読んでいた俺に、電話を受けた若いのが声をかけてきた。  池中組の組長とは、先日の先代の祝いの席で挨拶をした時以来のことで、不審に思う。そもそも、俺自身が、今の池中組の組長との接点がないのだ。 「そうっす」  組長宛でないことに首を捻りながら、受話器を受け取る。 「……藤崎です」 『ああ、藤崎。悪いな。今、大丈夫か』 「ええ、まぁ」  電話越しに聞こえる声は、先代が若かったらこんな感じだったろう、と思える。落ち着いた感じの声だった。 『今日の夜、時間があるか』    最近は、牛丼屋に行くだけではなく、帰りも共に駅まで行くようになった。その時の不思議そうな顔で俺を見上げるマサトの顔が浮かぶ。 「どういったことで」 『うちの親父の件なんだが』  先代の件、と言われると、見合いもどきのことを思い出し、眉間に皺が寄る。 「先代がどうかしましたか」 『……詳しい話は会ってからにしたい』  どこか真剣な声でそう言われてしまうと、俺の方は受け入れるしかない。今日はマサトの顔が見られないことに、内心、がっかりしてる自分自身に気付き、苦笑いする。 「わかりました。どこに伺えば」  そう問いかけると、池中組のシマの中にあるクラブの名前をあげられた。指定の時間に行くことを伝えて電話を切ると、俺は事務所を出ると自分の携帯を取り出し、電話をかけ始めた。三コール目に出た男の声は、慌てたのか上ずっている。 『は、はいっ』 「あー、圭太か」 『はいっ』  圭太は今、すっかり楽隠居面している親父の家で、家政夫もどきをしている。薄汚れたグレイハウンドみたいだったのが、今や、飼いならされた大型犬だ。 「今日の夜、暇か」 『はいっ、暇っす』  二十二にもなる男が、ジジイの世話を焼くことで満足しているのもどうかとは思うが、こういった日には助かるのも事実。 「悪いんだが、俺の代わりに牛丼屋行ってくれ」 『牛丼屋……ああっ!あの、チビのいる店っすね』  圭太はいつのまにか親父から話を聞いていたらしく、マサトのいる牛丼屋に客として何度か食いに行っていたらしい。 「ああ。一応、ちゃんと駅の改札を通るところまで確認してくれ」 『剣さん、過保護っすねぇ』  確かに、マサトも二十歳の大人の男だが、若頭という前例があるだけに、気が抜けない。しかし、それを圭太に言うつもりはない。 「頼んだぞ」 『はいっす~』  圭太の軽い返事に俺は溜息をつきつつ、通話を終えた。そして池中組の組長の声を思い出し、漠然とした不安を感じながら携帯を握りしめた。

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