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第62話 俺と母親の幸せの形(2)

 そんな俺をトシキは、嬉しそうに見上げてくる。 「いいねぇ、そういう泣き顔、たまんないね」  その言葉に、顔が引きつり、涙もひっこむ。  トシキの嗤うような顔に、恐怖しか感じない。そのせいで、また俺の息子はパワーダウン。 「んだよ、しっかり勃てとけ……っ!?」  不機嫌そうにトシキが全部言い切る前に、部屋のドアが勢いよく開いた。 「マサトッ」  そこには酷く顔を強張らせ、息をきらせたおっさんが立っていた。ちょっとだけ、いつもと違う感じなのは、スーツっぽいのを着ているせいか。ちょっと見た感じ、ヤクザっぽいサラリーマン、と、言えなくもない。  どうやって、この場所を知ったのかわからない。おっさんの姿にビックリして、声も出ない。  一方、トシキのほうは邪魔されたことに、一気に不機嫌そうになって立ち上がる。だけど、おっさんはトシキのことなど眼中にないみたい。俺の格好を見て、顔を歪める。  自分を無視されたせいなのか、トシキはおっさんに思い切りガンを飛ばして、言い放った。 「あんだ、てめぇ」  あ。  あー。  言っちゃった。  俺はギョッとしながら、そう言ったトシキに目を向ける。頭に血が上っちゃってるのか、サラリーマン風に見えてるせいなのか、思い切り喧嘩売っちゃってる。  二人を見比べると、トシキはおっさんよりも少し背が低いし、体格も負けてる気がする。ヤクザ相手にとか、無理でしょ。止めとけ、と言ってやりたいところだけど、先程までの比ではない、おっさんの殺気が怖くて声が出ない。 「……殺す」  おっさんの低くてドスの効いた声が聞こえた。その声を向けられただけで、俺だったらチビッちゃう。  それからの展開は、まさに『瞬殺』。おっさんの右ストレートがトシキの顔面に炸裂して、あっけなく沈んだ。そこそこ顔がいいかな程度ではあったものの、きっと人気のあったバンドマンだったろうに。これで暫く、ステージに立てそうにもないかもな、なんて思っているうちに、おっさんが駆け寄ってきた。 「マサト、大丈夫か」  チラリと俺の下半身を確認するの、やめてください。男同士でも恥ずかしいです。この格好。いや、さっきまでフェラされてただけに、男同士もアリな世界を知ってしまったから、余計に視線に晒されるのが辛いです。 「よぉ、藤崎~、大丈夫だった……あー、ギリ、セーフ?」  ソファに縛られてた手首のロープをはずして貰って、そそくさとズボンをはいているところに、スキンヘッドが顔を出した。視線は床に伸びているトシキに向けた後、ニヤニヤ笑って俺の方を見る。どういう状況だったのか、見当がついてるのだろうか。そう思うと、恥ずかしすぎる。 「沢田、助かった」 「ん~、いいよぉ。今度、牛丼の大盛、唐揚げ付き、あ、あとビールも付けて。それで手を打ってあげる~」  二人の会話で、スキンヘッドがおっさんを連れてきてくれたことがわかった。

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