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第65話 俺と母親の幸せの形(5)
完全に見つめ合ってる二人。先に声を出したのはみわ子。
「……もしかして、フカサワダイチ?」
……誰だよ、それは。
「は?」
「え、だから、有名なモデルの人よっ」
思わず、惚けてるみわ子に目を向ける。『恋する乙女』かよ。それに、みわ子、今、夜中だから。もう少し、声抑えろ。
確かに、若頭は、武原さんの息子とは思えない、モデルと言えそうなくらいイケメンだけど。あ、だからといって、武原さんが格好悪いというわけではない。タイプの異なる『いい男』というだけだ。
ていうか、そもそも俺、モデルの名前なんか知らないし。
「違うよ、この人、モデルとかじゃないから」
「ま、政人くん、こ、この人は」
そう言って宥めようとした俺に向かって、今度は若頭だよ。なんだって、若頭がどもるのか。俺は慌てて頭を下げる。
「あ、す、すみません、母のみわ子です」
「お母さま……? お姉さまではなく?」
……は?
若頭、目、大丈夫? 視力、いくつよ? 確かに、よく若く見られるとはいうものの、さすがに俺の姉ってのは無理があるぞ? 夜のせい? 街灯のあかりに誤魔化されてるのか?
「ま、まぁっ、嬉しいことをおっしゃいますのね。政人の母でございます」
……素直に喜んで頬を染めるみわ子。うん、それ、自分の格好を思い出してからにしようか。
遠い眼差しで、そんなことを考えていると、若頭、いつの間にかにみわ子のそばに立って手を握ってる……って、おいっ! どこのメロドラマだよっ! 絵にならないよっ! 絵になってるのは若頭だけだからっ!
「ああ、なんて可愛らしいんだ」
「……あら」
えー。若頭の趣味って、こんななの? 俺の母親だよ? というか、年の差、考えろっ、みわ子っ。俺は、呆れながら二人を見比べてしまう。
そんな二人の世界に入りそうになってるところ、車の運転席の窓が静かに開いた。おお、スキンヘッドが現れたよ。
「坊ちゃん、いい加減に帰りましょうよぉ」
グッジョブ!スキンヘッド! そうだよ、もう、真夜中なんだからっ!
なんとか二人を離れさせて、若頭に見送られながら、俺とみわ子はボロアパートの俺たちの部屋へと戻っていく。さっきまで乗ってた高級車とのギャップを感じずにはいられない。
俺が部屋のドアを閉めた瞬間、みわ子が、ポツリと呟く。
「政人、ちゃんと連絡いれてね……心配だから」
先に部屋の中へと戻っていくみわ子。ペタリペタリと足音が響く中、なぜだか、いつもよりみわ子の背中が小さく見えた。
「……うん」
俺はそう答えるしかなかった。
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