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第66話 俺と母親の幸せの形(6)

 そして、普段と変わらない平穏な日々を過ごしましたとさ……と、いう訳もなく。  牛丼屋のカウンターはすごいことになっている。  昨日の今日というのに、牛丼大盛を黙々と食べるおっさんに、その隣で同じ牛丼大盛を勢いよくかきこんでる大型犬。少し席を開けたところに、若頭を間に、スキンヘッドとサングラスの三人が座ってる。  おいおいおいっ! いつから、この店は武原組専用の食堂になったんだよっ!   武原組の貸し切り状態に、普通の会社員とか夜のお姉さんたちとか、入って来ないんだけどっ!  「はい、牛丼に豚汁のセットです」  この三人の姿を見ただけで和田くんはビビッて出てないから、代わりに俺が若頭たちの目の前に置いていく。もういい加減、慣れてもよくない?  その間、若頭は……満面の笑みで俺を見つめてくるんだ。その笑みが、ある意味、怖い。 「なぁ、政人くん」  ……『くん』? 『くん』? 俺に『くん』付け?  若頭のなんともいえない甘い媚びるような声に、俺は中に戻ろうとしてたのに、思わず立ち止まってしまった。同じようにおっさんの箸も止まったのが、俺の視野の端に映る。 「よく、見ると、君、お母様と似てるね」 「は、はぁ……よく、言われます」    ニコニコしながら言う若頭。俺のほうは『お母様』という言葉に顔を強張らせながらも、素直に答える。実際は、みわ子のほうが俺と比べたら大分小さいけど、並んで立ってみると、よく似てると言われる。まぁ、明らかに、俺の方が男っぽいはずだけどっ! 「でも、あっちの方が、ちんまいっすよね~」 「そうですね、だいぶ小柄かと」 「ちんまいって言うなっ!」  のんきなスキンヘッド、サングラス、そして怒鳴る若頭。まるで漫才みたいな三人のやりとりに、どう見ても『ヤ』のつく職業のはずなのに、と遠い目をしてしまう。 「……お茶くれ」 「あ、はいっ!」  少し不機嫌そうなおっさんの声に救われて、俺はお茶をいれるべく、その場を離れる。  戻ってみると、若頭は案の定、紅ショウガを大盛にして食べている。絶対、別料金とるべきだよな、と思いながら、若頭をスルーしておっさんの目の前に湯呑を置く。 「お待たせしました」 「おう」  湯呑を受け取ると、おっさんはチラッと俺の顔を伺うように見上げてくる。  今日、店に来て早々に、おっさんに聞くのもなんだと思って、タイミングを伺ってはいたんだけど……昨日のことを聞いてもいいってことだろうか。 「あ、あのっ」  俺は覚悟を決めて、おっさんに声をかけた。

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