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第67話 俺と母親の幸せの形(7)
ごくりと唾を飲み込む。おっさんの顔はいつもと変わらず、あまり表情を現わさない。
「き、昨日はありがとうございました」
あの自分の状況を思い出すと、顔を赤らめずにはいられないが、感謝の気持ちを言葉にする。
「ああ」
おっさんはそれ以上は口にしない。そこがクールで大人の男みたいで、クソッ、やっぱカッケェなって、つくづく思ってしまう。
「あの後って……」
「……」
おどおどしながら聞いてみたが、おっさんは返事もせずに、湯呑に口をつける。そこに、急に返事をしてきたのが、牛丼を完食して豚汁をズズッと飲み干した大型犬。
「おう、こっちで始末しといたから気にすんな」
「へ?」
「ああいうの好みのヤツらはいくらでもいるからし、他の奴らも、それなりに……ってな」
「えええっ」
一瞬、俺を残してったみゆたちの後ろ姿と、手を出してきた時のトシキの顔が浮かんだ。 みゆの言葉を信じて俺を放置していく奴らだし、トシキにいたっては簡単に襲うようなヤツだ。だから、どうなろうとも自業自得……と、言えればいいんだけど、この人たちの始末の加減の程度が想像がつかない。いや、そもそも、加減なんかしないかも?
ニヤニヤしながら話す大型犬に、おっさんが拳骨を落とす。
ああ、けっこういい音したな……。
「いてっ!」
「圭太、黙ってろ」
「くうっ……剣さん、痛いっす」
顔を真っ赤にして痛みをこらえる大型犬……圭太。かわいそうとは思いつつも、圭太の言ったセリフの方が気になった俺は、ジッとおっさんを見つめる。どこか諦めたような小さく溜息をつくおっさん。
「……堅気のお前が知る必要はない。……まぁ、二度とお前に手は出さないだろう」
「え、まさか、あのみゆって子まで……」
「フッ、あんなのでも未成年だからな」
「何、したんですか」
顔を青ざめながら問いかけるけど、おっさんはニヤリと笑うだけで、それ以上は答えてはくれなかった。
「政人くん」
なんともいえない空気の中、そんなの読まない若頭が声をかけてきた。呼ばれた俺が「はい?」と振り向くと、目をキラキラとさせた若頭が、身を乗り出すように問いかけてきた。
「お母様って、恋人いるのかな」
「っ!?」
若頭の言葉に、おっさんが湯呑を落としそうになった。
俺の方は、以前みわ子に絡んできた脂ぎったオッサンのことを思い返したが、あれは恋人とかでもなんでもないし。武原さんは……だったらいいな、とか思うけど、違うし。ていうか、そうなったら不倫だし、そもそも、若頭の父親じゃんっ!
「俺の知る限りではいないかと……」
顔を引きつらせながら正直にそう答えはしたものの、俺は考えてしまう。若頭の昨日のアレは、やっぱり、そういうことなのか? と。
俺みたいなデカいガキがいるおばさんだぞ?
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