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第73話 閑話:お嬢と不愉快な仲間たちの末路(2)
※不愉快な仲間たちの場合
マスターは大欠伸しながら、ライブハウスの前に立ったのは、いつもよい少し遅い昼過ぎのことだった。
昨夜はお気に入りのみゆと散々カラオケで歌いまくったせいで、喉はガラガラ。ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら、ライブハウスの出入り口のドアの鍵を開ける。そのままノブを回したが、ガッチリと閉まったまま。
「あぁ?」
眉間に皺をよせて、もう一度鍵を回すと、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
「くそっ、トシキのやつ、鍵、締め忘れたな」
不機嫌さを隠しもせず、思い切り音をたててドアを開ける。せっかく気分よく来たというのに、と、通路の奥の事務所のドアを開けた。
「あ、遅いじゃん」
「……お前、誰だ」
薄くて細い眉を片方だけ上げる様子は、かなり不機嫌なのが伝わってくる。
狭い事務所のソファに吞気に座っていたのは、金髪のロン毛のひょろりと背の高そうな若い男……圭太と、もう一人は角刈りに薄茶色のサングラスに、黒いスーツの下には鍛え上げられた筋肉が隠されてるのがわかるガタイのいい男。
「んー? 別に誰でもいいじゃん?」
「んだとっ。 勝手に事務所入ってんじゃねぇよっ……うわっ!?」
のんびりとした声で答えた圭太に、苛立って怒鳴ったマスターに、ガツンと背後から蹴りが入る。マスターは思い切り前のめりにソファの角に倒れ込んだ。ペットボトルが床に落ち、水浸しになる。
「……止まってんじゃねぇよ」
「ってぇ……何すんだっ……よっ……!?」
振り向いたところに立っていたのは。
「ふ、藤崎っ!?」
途端に圭太がマスターの頭をゴツンと殴る。
「いってぇぇぇっ!」
「てめぇ、剣さんの名前、呼び捨てにしてんじゃねぇよっ」
マスターは痛い頭を抱えながら、チラリと視線を向ける。政人のことを調べてる間に何度も姿を見かけていたが、目の前にするのとでは大違いだった。
ヤバイ。
本能的に、今の状況がヤバいということだけは理解できた。藤崎からの凍り付くような視線に身体が動かない。
「やだぁ、剣ちゃんてば、かっこよすぎぃ」
野太い声で藤崎を褒めるのは、角刈りの男。マッチョな姿に似合わないオネエ言葉に、マスターはギョッとする。
「でもぉ、これは頂けないわ~。全然、可愛げないじゃなーい?」
「いでででぇぇぇ」
角刈りの男がマスターの髪の毛を鷲掴みにして、顔を上げさせた。サングラス越しに見える目は冷ややかだ。
「高階」
「はーい♪」
高階と呼ばれた角刈りの男の野太い返事とともに、マスターの頭が投げるように離されると、勢いよく床に倒れ、呻き声をあげた。
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