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第84話 牛丼よりも愛を大盛、お願いします(8)

 で。結局のところ。  昨夜はサークルメンバーとオールになっちゃって、人気者の海老沢はなかなか一人になることもできず、天童に連絡とれなかっただけだった。  元カノは大学構内に入ったところで一緒になって、お互い遅刻寸前だったから一緒に入って来ただけ。でもって、天童を探したけど見つからず、空いている席もなかったから元カノと一緒に座っただけ、だという。 「そ、そうだったんだ……」  海老沢の説明に、天童もやっとホッとしたようで、どこか肩に力が入ってた様子も落ち着いたみたいだった。 「ごめんね。テンちゃん」 「ううん、俺のほうこそ、ちゃんと話てれば、誤解とかしなかったんだし」 「でも、ヤキモチ妬いてくれて嬉しいっ」  プイッと恥ずかしそうに顔をそむける天童に、身悶える海老沢が気持ち悪い。  というか、巻き込まれた俺、なんだったんだ。  脱力しながら、二人を見るが、まぁ、幸せそうで何より、ってことなんだろう。 「高橋、悪かったな」 「いや、まぁ、仲直りしたなら、いいよ、別に」  そして俺が二人の関係を知ったせいか、海老沢が羽目を外してイチャつきだした。天童も満更でもない顔してるし。  ……いい加減にしてほしい。俺は溜息をついて、現実を指摘してやる。 「おい、天童、次の講義大丈夫か?」 「あ、え? ヤバッ。高橋、ゴメンな。海老沢、また後で」 「うん、じゃぁね~」  ご機嫌に手を振る海老沢を残して、慌てて学食から飛び出していく天童。その背中を見送りながら、俺はポツリと思ってたことを口にした。 「……よく、ここにいるってわかったな」  目の前に座る男は、ニヤニヤしながら携帯を弄り始める。 「うふふ、そりゃね」 「なんだよ。気持ち悪いな」 「愛しいテンちゃんが、どこにいるか、ちゃんと把握しないとね」  俺に差し出して見せたのはGPSのアプリ。『テンちゃん』と書かれた赤いマークが表示されている。明らかに、うちの大学の構内だ。 「教室にいるのはわかってたんだけど、まさかテンちゃん、隠れちゃうとか、ないよねぇ」  画面を見ながらニヤついてる海老沢。どこか昏い眼差しが、不気味だ。 「そこまで執着される天童、不憫だ……」 「そう? まぁ、俺もここまでハマるとは思ってなかったけどね」  そう言いながらも「帰ったらお仕置きしなくちゃ」と、嬉しそうに言う海老沢が怖すぎる。頑張れ、天童、と心の中で応援したのは言うまでもない。  まさか、こんな身近に、男同士のカップルがいたとは思いもしなかった。確かに、海老沢のスキンシップが多いなとは思ってたけど。 「まぁ、これからはちゃんと連絡してやってよ。かなり、ショックだったみたいだから」 「わかったよ……テンちゃんのこと、サンキュ」 「あー、まぁ、なんだ。初心者相手なんだから、ほどほどにな」  そう言ったものの、海老沢は返事もせずに、ただ画面を見たままニヤリと笑うだけだった。

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