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第85話 牛丼よりも愛を大盛、お願いします(9)
あれ以来、天童は俺と二人きりになると、場所がどこであろうが、思いっきり惚気るようになった。
そりゃ、まぁね。誰彼構わず話せる内容じゃないのはわかる。そもそも、天童自体、普段から、どちらかと言えば大人しい性格というのもあって、友人の数は多くない。その上、下ネタだ。余計に話す人を選ぶのもわかる。
だからって、俺に……いわゆるイタす話を微に入り、細に入り説明することはないと思うんだ。そりゃぁ、俺も年相応にそういったことに興味がないわけではない。おっさんのことを好きになっちゃった時点で、そういう関係になる可能性だってある……わけだし?
それでも!
友人同士が、その、そういう関係なのを、赤裸々に語られると、俺としてもどう反応したらいいのか、わからないわけで。
「ほい、高橋くん、牛丼大盛」
「ふぇっ!?」
ついつい、ボケッと天童たちのことを考えてたせいで、店長の声に変な声で返事をしてしまった。
「おいおい、最近、どうしたのよ?」
店長は心配そうに聞いてくる。
「え、えへへ、すみません」
「……気を付けろよ」
なんとか笑って誤魔化す。
うん、すみません。下世話なこと、考えてるだけです。
天童の話のせいで、俺自身、モヤモヤと考え込むことが多くなって、そのたびに誰かしらに注意される。今日は和田くんも入ってるから、余計に弄られるかもしれないから、気を付けなきゃいけないんだけど。
それに拍車をかけているのは、おっさんの存在で。
今まで以上に、おっさんの姿を見ては、心臓がバクバクいうようになってしまった。
まさに、今、目の前で俺を見つめてるおっさん。なんかいつも以上に、目力を感じるんだけど。心臓に悪すぎる。
「お、お待たせしました」
「……おう」
ヤバイ。
おっさんの声を聞いただけだってのに、手が震える。
辛うじて、ミスなくおっさんの前に牛丼を置いた俺は、そそくさと奥へと戻る。だけど、ついつい、フロアが気になって目を向けてしまう。ちゃんとおっさんが牛丼を食べてるのか、確認したくて。
おっさんは、いつも通りに黙々と箸を進めてる。うん。いつも通り、カッコいい。
「ほれ、マサく~ん、次のお客さんのお願い~」
「あ、は、はいっ」
ボケーッと見てたところを声をかけられてワタワタしてる俺の姿を、おっさんはニヤニヤとしながら見ていたとは、和田くんに「愛されてるねぇ~」なんて揶揄われるまで、知らなかった。
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