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第10話

それを知っているので、時間があれば出前便でなく祐羽が直接配達に行っていた。 ホテルの距離も店から遠くなく、また家へ向かう途中にあるので、特に問題はなく届けられる。 「うん、いいよ。チキン南蛮弁当で良かったよね?」 『ああ、それでお願いするよ。昼を食べ損なってね。中途半端な時間にごめんけど、急がないから気をつけて来て。あと、部屋は今日いつもと違うインペリアルスイートだから』 「インペ…?」 『イ、ン、ペ、リ、ア、ル。まぁ、一番広くていい部屋に今日は居るから』 「うん、分かった。じゃぁ今から作って持って行くから、ちょっと待っててね。」 『待つ待つ。全然待つから、あっ、ご飯大盛でヨロシク』と通話は切れた。 「お父さーん、注文入ったよ。チキン南蛮弁当ひとつ!」 祐羽が厨房へ声を掛けると「まだ居たのか?!」と亮介に驚かれ、香織には「もうお店はいいから帰りなさい」と呆れた顔をされる。 「うん、ありがとう。でも篁《たかむら》のおじちゃんからの注文だから僕が行くよ」 疲れはあるものの心配をかけまいと元気に返すが、それで誤魔化される両親ではなかった。 「じゃあ届けたら早目に帰るんだぞ。長話禁物だからな」 「うん、分かった」 体調が悪くて全く動けないとかではないし、先程の仮眠で随分良くなったからそこまで心配してくれなくても大丈夫なんだけどな…と思いつつも両親の気持ちが嬉しい。 それに篁は月ヶ瀬弁当のファンで昔から応援してくれており、時々小説に弁当屋を登場させてくれている。

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