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第11話

その為、篁の熱心なファンからは聖地として認定されており、売り上げにも一役買ってくれている。 その感謝の気持ちもあって、出来るだけ自分で届けたかった。 そして両親もなんだかんだで篁とは仲良くしており、祐羽に弁当を渡すと「篁さんに宜しく伝えておいてくれ」と見送ってくれたのだった。 そうして祐羽は弁当の入った袋を片手にホテルを目指しテクテク街へと歩き出した。 外はまだ明るいが、時間的には帰宅と重なり人の数はかなり多い。 その人の群れを避けつつ歩くことは、小柄な祐羽にとってはなかなか労力を要する事だった。 頼まれた大盛弁当の中身を崩さない様に気をつけながら歩き十分ほどで無事ホテルへと辿り着いた。 方向音痴な祐羽も何十回も通えばさすがに迷う事はなく、ロータリーに居たドアボーイに「こんばんは月ヶ瀬さん」と笑顔で挨拶を貰う程の常連だった。 「白田さん、こんばんは。お仕事ご苦労様です」 見知った顔に笑顔で返し、それからホテルへ入ろうとすれば「あのっ!」と背中に声を掛けられる。 何だろうと首を傾げると、白田が珍しく歯切れの悪い様子を見せる。 「えぇ…っと」 「?」 思わずキョトン顔で白田を見つめていると、ホテルの格式に見合った高級車がロータリーへと入って来た。 「お客様が来られたみたいですね。それじゃぁ僕はこれで」 また会った時に聞けばいいかと思いペコリと頭を軽く下げた祐羽は邪魔にならないようソソクサとその場を離れた。

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