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第12話

そんな自分に白田が何か言いたそうにしていた事には気がつかず、もう一人のドアボーイに開いて貰った重厚なドアから祐羽はホテルのロビーへと入ると「ふわぁ…綺麗」と立ち止まった。 何度も来ているはずだが、やはりロビーの絢爛豪華なその造りに感嘆の声を上げてしまう。 篁《たかむら》御用達のこのホテルは、世界に冠たる超有名老舗ホテルで、外観も趣があるのだが、一歩入ればまさに別世界と言っても過言ではない空間が広がっている。 天井からは目映い光を煌めかせる大きく豪奢《ごうしゃ》なシャンデリアが吊り下げられており、その灯りは淡く暖かくロビー全体に注がれている。 他には人間国宝が手掛けたという画が施された壁画に、日本らしい木を用いた伝統工芸が彩っており上品さを加えていた。 調度品はというと派手ではないが全てが最高級で揃えられており、足元の床は贅沢の極みとも言えそうな重厚かつ洗練された模様の絨毯が敷かれており、歩くのがもったいない程だ。 普通ならば庶民が気軽に来られる様なホテルではない為、この場で心配しているのは祐羽だけだろう。 そんな格式高いホテルでキョロキョロと館内を落ち着き無く見渡す私服姿の祐羽は正直目立つ。 白い肌に華奢な体、その上に小さな顔がちょこんと乗っておりパッチリした目と小さな鼻と口で小綺麗なのだが、見た目は幼い子どもなので十八歳で成人を迎えたとは見えない。 その上、片手には弁当の入った店のおにぎりロゴの入ったビニール袋は動けばカサカサと音がして、どう考えてもこの高級ホテルには到底相応しくない客の祐羽は、周囲から不躾に視線を向けられる。

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