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第15話

今まで経験した事のない得体の知れない感覚に包まれていく事に、祐羽は戸惑いにアワアワと不審な動きをしてしまう。 ――こんな風になるの初めてだ。どうしよう。ドキドキが強くなって心臓が痛い。 祐羽は思わず心臓の辺りをギュッと押さえた。 そして鼓動が速くなっただけでなく、何か鼻の奥へと嗅いだ事のない甘ったるい香りまでしてくる。 ――これ、さっきから何の匂いだろう?ずっと嗅いでいたくなる…良い匂い。 祐羽が思わずクンクンと犬の様に鼻をひくつかせ匂いを確かめようとすると、男が眉間に皺を寄せながら訊いてきた。 「ところでお前は誰だ。何の用だ」 その低く魅惑的な男の声に、腰の辺りから背中を甘い痺れが走った。 祐羽は体が震えそうになるのを我慢すると、それを誤魔化そうとして気づかない振りをする。 それから慌てて姿勢を正し本来の目的の説明を始めた。 「えっと、僕は月ヶ瀬と言います…っ。そのっ、篁《たかむら》のおじちゃんに頼まれて、お弁当を届けに来ました」 「弁当?」 「はい」 懐疑的な表情で訊ねてくる相手に元気よく返事をし、それから「これです」と袋を持ち上げて中の弁当を相手に見せた。 「チキン南蛮弁当です。お肉もすごーく柔らかくてジューシーで、タルタルソースも美味しいので僕のお店では二番人気です!!一番は唐揚げ弁当なんです!」 「弁当の人気など聞いてない」 「あっ、そ、そうですよね!」 つい焦りから弁当の説明をしてしまったが、自慢話をズバッと切り捨てられ思わずショボンとなり―この人ちょっと怖い―と思ってしまう。

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