――だけど、この人…今までのαと何か違う。 怖く冷たい男からは、見た目とは反対に優しく甘い匂いが香っていて、それはどんどんと増していく。 自分を包むその不思議な感覚に、祐羽は頭がぼんやりしそうになるのを目を閉じて頭を振って追い払う。 今日は体調がおかしいとは思っていたが、これは疲れだけではない。 なるべく早く話を切り上げて家へ帰りたいと、祐羽は本題へと移った。 「えっと…あのぅ…篁のおじちゃんは？」 「居ないが？」 「え？」 それならば目の前の人物は誰だろうかと疑問が浮かぶと、それを察したのか男が教えてくれる。 「篁の親戚だ」 その言葉に、祐羽は下に向けていた視線を男に向けた。 「えっ？篁のおじちゃんの親戚の人ですか？」 「そうだ。まぁそんな事はどうでもいい。弁当は渡しておくから、お前はさっさと帰れ」 ――そんな言い方しなくても。 キツい物言いに反発したかったが、大人しい性格の自分にはこの怖そうな男に対して強く言うのは無理だった。 篁に直接渡したかったがそれを諦めた祐羽は、男に弁当を渡すと頭をペコリと下げ、早くこの場から離れる為に踵を返した。 この男の側に居るせいか変な感覚に体が包まれ、甘い匂いで頭も足元もフワフワして、いよいよ怪しくなってきて焦りが募る。 本格的に体調が崩れ始めたのを感じて、こんなことなら母の言った通りにもっと早めに帰れば良かったと思わずにはいられなかった。 ――家まで頑張って帰らなきゃ。でも本当に体がおかしい…。